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窓を開けると、すぐそこに君へと繋がる窓がある。
月の下で、取り留めのない会話を交わしたことも、今までに何度もあった。
時にはぽつりぽつり話すだけで、ただ時間を共に過ごすだけのこともあった。
言葉を交わすことのない穏やかな時間を共有することで、話をするよりももっとたくさんのことをお互いに知ったような気がする。
最後の段ボールに封をして押入に押し込んでから、閉じていたカーテンを開いた。
君の部屋の灯りは、まだ消えていない。
ゆっくりと窓を開けると、不意にがらりと君の部屋の窓が開いて。
上げた視線は、君のそれとしっかり絡んで。
吹き出しのは、二人同時。
「なんだよー」
「それこっちのセリフだよ。急に窓開けんだもん」
どしたの? なんて笑えば、んー、と笑いを引っ込めた君が。
伏せていた瞳をしっかりと上げて。
「ゆーとが、……呼んでるような気がしたから」
「……」
「当たった?」
さっきまでとは色を変えた瞳が、からかうように聞いてくるのに、ようやく乾いた笑いを浮かべて見せた。
「どうかな」
「どっちだよ」
「ご想像にお任せシマス」
「じゃ、呼ばれたことにしとく」
ふふっ、と楽しそうに笑う君に。何かを言い返すことは出来なかったけれど。
無性に、抱き締めたくなった。
抱き締めて、思いつく限りの場所にキスしたいと思った。でもだからってそれは、ヤラシー意味じゃない。
ただ、狂おしいほどに愛しくて、
泣きたくなるほど哀しくて、
叫びだしたいほど痛くて、
切なくて、悔しくて。
どうしようもなかったから。
抱き締めたら、このキモチも少しくらい和らぎそうな気がしたから。
だけど、この手を伸ばしても、君には届かない。
そう気付いたら、今度は淋しくなった。
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