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夏休みの思い出。
去年の思い出。
一昨年。
中学、小学校、幼稚園。
全部全部、消えればいい。
お前なんて、知らない。
もう、お前なんて、──知らない。
目が覚めると、見慣れた天井があって。ぼんやりしてると、声が聞こえてきた。
「明。早くしないと遅刻するよ」
優しい声。懐かしい声。愛しい声。
確かこうやって、起こしに来てくれたんだ。
ドキドキしながら布団の中で待ってると、廊下を歩く音が聞こえてきて。
かちゃ、と静かにドアが開く。
次に覗くのは、アイツの、優しい──
「明」
「……」
呼ばれた時に、夢が覚めた。
起こしに来たのは、なんてコトはない。母親だった。
でも一体、誰を待ってたんだろう、なんて上手く働いてくれない頭をフル回転させるけど、霞が掛かったように思い出せなくて。
ぼんやりしてたら、とうとう怒られた。
「新学期早々遅刻したらどうするの」
部屋の隅に転がった旅行鞄に首を傾げながら、慌てて身支度を整えて家を飛び出した。
朝のSHRが終わった後の短い休み時間。
眠りが足りなかったのか、思わずうとうとする所に、健が駆け込んできた。
「明くんっ」
「ぇ? あー……健、おはよー」
「おはよぉ。……って、違うがな!」
「何ー?」
「なんや、どないしたん?」
健の様子に、ヒロまでが近付いてくる。
何? と二人して健に視線を向ければ
「藤崎が転校ってどういうことなん!?」
「えぇっ!? 転校!?」
今度は逆に、二人から視線を向けられる。
同時にクラス中がこっちを向いたような気がしたけれど、苦笑しながら首を傾げた。
「なんのこと?」
「いや……だから、藤崎が転校したって聞いたんやけど……なんでなん?」
「……」
同じ問いを繰り返されて、どう答えていいものかと悩むところにチャイムが鳴った。
「ぁ。健、戻らんでえぇんか?」
「あ、ぁ……うん。戻る」
また来るわ、と去っていく姿を見送りながら、欠伸を噛む。
「ほら、ヒロも自分の席戻んなよ」
「うん……」
席に着くまでに何度も振り返るヒロには、気付かないフリで眠い頭をフル回転させる。
藤崎……って……誰?
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