act.8

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 ゆっくりゆっくり、時間が過ぎてく。  足りないのが何か、とか。欲しいのは何か、とか。  考えてるヒマはたくさんあったけど。  敢えて考えなかったのは──。  ざわざわざわざわ。もう、うるさいったらありゃしない。  たかだかあの男が転校したってだけで、なんでこんなにも騒いでるんだよ。平和な学校だなホントに。  廊下のあちこちで、特に女子がざわめいてるのに心の中でそんなコトを呟きながら、彼の居るクラスに向かう。  自分は1組。彼は10組。端と端に別れてるのと、普段はあの男がいたせいで、ほとんど近づけなかったけど。  ホントは普通に仲も良いし、前はよく遊んでたんだ。  こんだけ騒ぎになってると、彼はきっと、女子の総口撃くらってるはず。あの男と、一番仲良かったんだし。  焦ってない、みたいな余裕の表情浮かべつつ、今にも走り出したいのを堪えて。  たんたんと歩いて10組の教室に入る。  やっぱり、色んなヤツに囲まれてる彼に 「明くん」  久しぶりに声を掛けた。 「……朔弥くんっ」  顔を上げた彼は、驚いたみたいな顔をした後で、前みたいに優しくて嬉しそうな、いっぱいの笑顔をくれる。 「久しぶり、元気だった」  イスから立ち上がってパタパタ走り寄ってくる彼に、笑みを見せつつ。取り残された連中が、つまらなそうな顔して散らばっていったのを確かめる。 「元気だよ。明くんこそ元気だった?」 「元気だよぉ」  無邪気な笑顔は、変わらないはずなのに。  どこか腑に落ちないのは、気のせい?  しばらく近くにいなかった分、君の感情の変化に疎くなったのかも知れない、なんて思いながら。  暴れる心臓を押さえつけて、冷静を装いながら 「……結人くんが、転校したんだって?」 「結人……」  ゆっくりと口を開いて紡いだ名前に。  キョトン、とした顔をした後で。 「……ぁあ、そっか! そうだそうだ」 「……明くん?」  思い出したそうだそうだ、なんて楽しそうに笑う彼を、さすがに怪訝に見つめる。
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