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一人トボトボ帰る、帰り道。
何か物足りない、なんだっけ? 誰と一緒に帰ってたっけ?
そんな風に首を傾げながら、でもまぁいっか、なんて思ったりもする。
今日は久しぶりに、朔弥くんに会えた。
朔弥くんは頭がいいから、数人しか受けない特進クラスを受験して、受かってて。だから、ずっと、離れたクラスで。
ずっとアイツと一緒にいたから、会わなくても淋しくなかったんだけど。
そんな風に考えてから、また、あれっ、と思った。
アイツって誰だっけ?
やな感じ。解んないのに、誰かのこと欲しがってる。
もやもやする。誰? ぼやけた顔した、霞がかってる、アイツって。
オレもついにボケてきたのかなぁ。それとも、今流行りのアルツなんとか? あぁ、この名前思い出せない時点でヤバイよ。
そんな風に、違うこと考えて笑い飛ばしてから。
ふと、立ち止まって取り返った。
「…………いないの?」
いつも隣にいて、笑っててくれた、アイツは。
ホントにもう、どこにも。
「……いないの?」
泣きそうになって、焦る。
誰だかも解んないヤツのことで、泣いてどうするんだよ。
ふるふる頭を振ってから、家までの短い距離を駆け出した。
忘れたことを、後悔なんてしない。
忘れようと思ったことを、後悔することもない。
ただ、アイツがいないこと。
ただ、アイツの秘密に気づけなかったこと。
後悔するとすれば、そんな、一番最初の所。
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