act.8

4/6

285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 一人トボトボ帰る、帰り道。  何か物足りない、なんだっけ? 誰と一緒に帰ってたっけ?  そんな風に首を傾げながら、でもまぁいっか、なんて思ったりもする。  今日は久しぶりに、朔弥くんに会えた。  朔弥くんは頭がいいから、数人しか受けない特進クラスを受験して、受かってて。だから、ずっと、離れたクラスで。  ずっとアイツと一緒にいたから、会わなくても淋しくなかったんだけど。  そんな風に考えてから、また、あれっ、と思った。  アイツって誰だっけ?  やな感じ。解んないのに、誰かのこと欲しがってる。  もやもやする。誰? ぼやけた顔した、霞がかってる、アイツって。  オレもついにボケてきたのかなぁ。それとも、今流行りのアルツなんとか? あぁ、この名前思い出せない時点でヤバイよ。  そんな風に、違うこと考えて笑い飛ばしてから。  ふと、立ち止まって取り返った。 「…………いないの?」  いつも隣にいて、笑っててくれた、アイツは。  ホントにもう、どこにも。 「……いないの?」  泣きそうになって、焦る。  誰だかも解んないヤツのことで、泣いてどうするんだよ。  ふるふる頭を振ってから、家までの短い距離を駆け出した。  忘れたことを、後悔なんてしない。  忘れようと思ったことを、後悔することもない。  ただ、アイツがいないこと。  ただ、アイツの秘密に気づけなかったこと。  後悔するとすれば、そんな、一番最初の所。  *****
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加