285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
ただいま、も言わずに家に上がり込んで、部屋に駆け込む。
乱暴にドアを閉めた後で、ずるずるとドア伝いに座り込んだ。
立てた膝に顔を埋めて、何かに耐えるみたいに、じっとしてたら。
こんこん、てドアをノックされて
「明、帰ったの?」
うん、と呟いたら、ただいまくらい言いなさい、って怒られた。
何か今日は、朝から怒られてばっかだな、なんて思いながら。うん、ごめん、って笑いながら返す。
ホントにもう、って呟く声と足音が遠くなっていくのを聞いて、ホッと溜め息を吐いた。
持て余すほどの激情が過ぎ去って、ぽっかり穴が開いたみたいな寂しさだけが残った胸を抱えたまま、ゆっくり立ち上がって窓に歩み寄る。
窓を開ける。
程よく海が近いせいか、生臭いような潮の匂いが入ってきて、目を細めながら。
目の前にある、隣の家の窓を見つめた。
『明』
急にそんな風に呼ばれた気がして、オロオロと周囲を見渡したけれど、どこにも誰の姿もなくて。
胸の奥の方が、ズキズキした。
痛くて、立ってられないくらいで、もしかして変な病気かも、とか弱気になったけど。
さっきの声、知ってる気がする、と思ったら。
急に痛みは消えてった。
「………………ゆうと……」
無意識に呟いてから、窓を閉めた。
*****
最初のコメントを投稿しよう!