act.8

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 ただいま、も言わずに家に上がり込んで、部屋に駆け込む。  乱暴にドアを閉めた後で、ずるずるとドア伝いに座り込んだ。  立てた膝に顔を埋めて、何かに耐えるみたいに、じっとしてたら。  こんこん、てドアをノックされて 「明、帰ったの?」  うん、と呟いたら、ただいまくらい言いなさい、って怒られた。  何か今日は、朝から怒られてばっかだな、なんて思いながら。うん、ごめん、って笑いながら返す。  ホントにもう、って呟く声と足音が遠くなっていくのを聞いて、ホッと溜め息を吐いた。  持て余すほどの激情が過ぎ去って、ぽっかり穴が開いたみたいな寂しさだけが残った胸を抱えたまま、ゆっくり立ち上がって窓に歩み寄る。  窓を開ける。  程よく海が近いせいか、生臭いような潮の匂いが入ってきて、目を細めながら。  目の前にある、隣の家の窓を見つめた。 『明』  急にそんな風に呼ばれた気がして、オロオロと周囲を見渡したけれど、どこにも誰の姿もなくて。  胸の奥の方が、ズキズキした。  痛くて、立ってられないくらいで、もしかして変な病気かも、とか弱気になったけど。  さっきの声、知ってる気がする、と思ったら。  急に痛みは消えてった。 「………………ゆうと……」  無意識に呟いてから、窓を閉めた。  *****
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