285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
「……明、元気かなぁ……」
濁った空の下で、呟いた。
曇ってるのかと思ったら、これで晴れてるらしい。
明石の空は綺麗だったんだな、とか。
明石にはいつも、潮の匂いがしてたんだな、とか。
離れてから気付いた。
だけど、そんなことは慣れてしまえばどうってことないんだと思う。
どうってことないのは、思い出すと胸がズキズキ痛いのは、もっと違うこと。
あんな風に明のこと置き去りにして、あの後明はどうしたんだろう、とか。
あの書き置きに、気付いてくれたかな、とか。
それより、なにより。
元気かな、とか。
離れてほとんど時間なんか経ってないのに。
もう、こんなにも明のことが。狂おしいくらいに、欲しくて。
ポケットをごそごそ探って取り出した、空色の石。
たぶん、割れた瓶の欠片が、川の流れで丸くなって出来たであろうそれを、空に透かし見る。
これをくれたのは、明だった。
小さい時とかじゃない。旅行に行った時、我慢出来ないみたいな顔した明が、いきなり靴を放り出して、ばしゃばしゃ川に入って行った時に見つけて、オレにくれた。
『ゆーとー!!』
『なに、どうした!?』
『あげるー』
『へ?』
『旅行に誘ってくれたお礼』
ぽいって。投げられて。
慌てて掴んだ手のひらに。乗ってたのがこれ。
暑さも忘れるほどの涼やかな景色と。太陽みたいに眩しくて、だけど見ずにはいられないくらい、元気な明の笑顔と。
思い出して、ゆっくりと笑った。
楽しくて、大切で、大事で。
そういえば、この石の色はあの日の空の色に似てる、なんて思ってから大事に大事にポケットにしまい込んだ。
離れても繋がってる心。
オレは、そんな子供だましを切に信じてたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!