act.9

3/6

285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 この子らは、ずっと一緒なんやろうなって、思ってた矢先の転校で。訳解らんのに。  加えて明くんは、全部忘れてた。  全部、言うたら語弊がある。  ただ、あの子とずっと一緒におって、愛し愛され、誰よりも強い絆を持っていたことを、忘れてた。  朔弥くんが言うにはたぶん、そうせな生きていかれんかった、らしい。 「自己防衛、だと思うよ」 「自己防衛?」 「何それ」 「………………保健の時間に習ったでしょ」 「……そうやっけ?」 「オレ保健の時間寝てるしなぁ」 「……」  大袈裟に溜め息吐かれて、健と二人で縮こまるしかなかった。  朔弥くんとおると、自分のバカさ加減を改めて気付かされる。  大まかに説明してもらった後で、とりあえず開いてみた保健の教科書。確かに授業でやったはずやのに、初めて読むみたいな文章を、健と二人で顔付き合わせて読んだ後で、納得した。  自分を保つために、全部忘れた。  そう思うと、明くんの笑顔が痛々しく思えてしょうがなくて。  だからもう、明くんを絶対に守らなアカンと思った。  今思うと、もしかするとちょっと恋やったんかもしれん。  そう言ったら、健に本気顔で止められた。 「ヤメとけ。藤崎に知れたら、お前……本気でボコられんで」  *****
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加