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オレの字じゃない文字を譜面の中に見つけるたびに、首を傾げた。
しかも何枚もあるそれは、それでも耳に覚えのあるメロディーで。
えらく癖のある、お世辞にも綺麗とは言えないその字に、懐かしささえ覚えながら、ゆっくりとなぞる。
小さくメロディーを紡ぎながら、あれ? と思うのは。自分がメインじゃなくて、ハモを歌ってること。
独りで歌うのに、メインもハモもないだろう、と思うのに。
明らかにメインのメロディーじゃなくて。
よく譜面を見てみると、歌詞は自分の字だけど、コード進行は他の誰かの字だったりして。
じゃあ、オレは誰かと一緒に歌ってた? でも誰と。
首を傾げるといつも、メロディーが聞こえてくる。
それは、さっきまで自分がハモっていた歌だったり、違う曲だったりしたけれど。
覚えのある懐かしい声だった。
だからもう、何にも難しいこと考えないで、聞こえてくる音に負けないようにハモってやる。
そうすると、覚えのある声が、笑うんだ。
『そんなおっきい声出すと、おばさんに怒られるんじゃないの?』
そんなことないよ、と返そうとすると、必ず下から怒られた。
「明! 声が大きい! もう、ご近所迷惑でしょう」
ビックリするのと同時に、その懐かしい声もメロディーも何処かへ姿を消してしまう。
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