act.9

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 お母さんの声の方が近所迷惑だよ、と思って部屋を出るのは、最近の習慣みたいなものだった。  ゆっくりと外を歩きながら、今にも泣き出しそうな空を見上げる。  雨が降るかも知れない。  傘を取りに帰った方が良いかも知れない、なんて考えは一瞬頭を掠めたけれど。  別に良いか、とあっさり諦める。  急がずに家の近くの公園に入って、隅に植わっている樹齢何十年、なんていう大木に足をかけた。  最近、この木に登って、近付く空を見上げるのが好きだった。  慣れた動作でよじ登って、空に一番近い場所で太い枝に腰を下ろす。  投げ出した足をブラブラさせながら、灰色の空を見つめる。  アイツのいる場所も、雨なのかな。  思ってから、はた、と気付く。  アイツって誰だよ、だから。  もう苦笑しか浮かばない唇を噛んでから、耳の奥の方に残ってるメロディーを口ずさむ。  ぽつり、と何かが顔に当たった気がしたけれど、気のせいだと決めつけて、歌い続けた。  届くように。  忘れないように。  ここにいることを、教えるために。  ずっとずっと、本当は心の底から、愛していると言うことを、伝えるために。  この空を伝って、溶けた想いが届くように。  葉に当たる雨音に消されないようにと、声を大きくしながら。  頬を、雨とは違う、温かいものが伝っていくのには、気付かないフリをした。
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