act.9

6/6

285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 *****  長い長い時間だった。  傍に温もりを感じられないその時間は、永遠とも思えた。  離れてもこうして、笑っていられることが不思議で、息をしていられることも、不思議だった。  だけど、きっと今こうしているのは、いつか君に逢うためだと思った。  いつかまた君に逢おうと思ったら、こうして、息をして、密かに生きていなければ。  君の温もりを思い出しながら、ゆっくりと笑いながら。  そうして、生きていなければ、君にまた逢うことさえ不可能なのだと。  言い聞かせるように3年間。  忙しさと寂しさの中で何度も何度も喘ぎながら。  それでも精一杯、生きていた。  君とまた、笑い合えるように。  君とまた、時間を共に出来るように。  君との時間を、支えに、耐えてきた。  これが、もしかすると、あの時の罪の罰なのかもしれないと。  思ったらよけい、苦しくなった。  あの時のオレの手ひどい裏切りが、君をそこまで傷つけたのだとしたら。  辛くて辛くて、泣きそうだった。  だけど、君は。  残酷なまでに。あの時と変わらない笑みを、その唇に浮かべるんだね。 「………………あぁ、久しぶり?」  そんな言葉が聞きたくて、わざわざ帰ってきたんじゃないよ?
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加