act.10

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 いつものように木の上で。  近くなった空を見つめる。  最近ではもう、ここで寝ることさえ出来るほど、この場所に馴染んでいて。  今日もうとうとしていたら、ふと、下の方で声がした。 「………………あきら」  知ってる声だと思った。  懐かしい声だとも思った。  だけど何よりも、狂おしいほど愛しい声だと思った。  そして、記憶の中にある声だと、思った。 「…………誰~?」  ドキドキする胸を押さえつけて、寝ぼけた声を出すと、がしっ、と音がして。  驚いて体を起こすと、男が一人、頑張って木に登ってくる途中だった。 「………………なに、して……」 「お前……ここ……好きだよな……」  にっこりと、笑う瞳の奥が揺れてるような気がしたのは、気のせいだろうか。 「…………そうだね」 「昔から……よく……ここ、来てたでしょ」 「……うん、来てたね」 「…………ごめん、手、貸してくれる?」 「……」 「久しぶりだからさ、感覚、掴めてないのよ」  苦笑する顔に、そっと手を伸ばした。 「…………ありがと」  笑った顔。  思い出す。 「藤崎?」 「うん、そう」  今頃気付いたの? 笑う声が、震えてる。 「………………あぁ、久しぶり?」 「……うん、久しぶり」  とうとう隣にまで登ってきた藤崎を、しげしげと見つめる。 「どしたの? 転校したんじゃなかったっけ?」 「うん。でも、帰ってきた」 「なんでまた?」 「…………こっちの大学、受けて、受かったから」 「ふぅん、おめでとう」  さっきから、胸の中が可笑しいんだ。  なんか、痛いくらい苦しいのに、切ないくらい愛しくて。  だけど、許せないくらい恨めしくて、今すぐ泣き出したいくらいに優しい気持ちだった。
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