285人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
いつものように木の上で。
近くなった空を見つめる。
最近ではもう、ここで寝ることさえ出来るほど、この場所に馴染んでいて。
今日もうとうとしていたら、ふと、下の方で声がした。
「………………あきら」
知ってる声だと思った。
懐かしい声だとも思った。
だけど何よりも、狂おしいほど愛しい声だと思った。
そして、記憶の中にある声だと、思った。
「…………誰~?」
ドキドキする胸を押さえつけて、寝ぼけた声を出すと、がしっ、と音がして。
驚いて体を起こすと、男が一人、頑張って木に登ってくる途中だった。
「………………なに、して……」
「お前……ここ……好きだよな……」
にっこりと、笑う瞳の奥が揺れてるような気がしたのは、気のせいだろうか。
「…………そうだね」
「昔から……よく……ここ、来てたでしょ」
「……うん、来てたね」
「…………ごめん、手、貸してくれる?」
「……」
「久しぶりだからさ、感覚、掴めてないのよ」
苦笑する顔に、そっと手を伸ばした。
「…………ありがと」
笑った顔。
思い出す。
「藤崎?」
「うん、そう」
今頃気付いたの? 笑う声が、震えてる。
「………………あぁ、久しぶり?」
「……うん、久しぶり」
とうとう隣にまで登ってきた藤崎を、しげしげと見つめる。
「どしたの? 転校したんじゃなかったっけ?」
「うん。でも、帰ってきた」
「なんでまた?」
「…………こっちの大学、受けて、受かったから」
「ふぅん、おめでとう」
さっきから、胸の中が可笑しいんだ。
なんか、痛いくらい苦しいのに、切ないくらい愛しくて。
だけど、許せないくらい恨めしくて、今すぐ泣き出したいくらいに優しい気持ちだった。
最初のコメントを投稿しよう!