act.10

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「……なぁ、明……」 「何?」 「ごめん」 「……なんで急に謝んの?」 「だって、怒ってんでしょ?」 「何を?」 「……オレが、黙って行ったから」 「何の話?」  ぐるぐるしてる。  胸の中とか頭の中とか。  どうしていいのか解らないのに、妙に冷静な自分もいる。  このまま、なにも思い出さなくていいんだ。  そう言ってる。 「……勝手に、転校したこと」 「……別にオレに断っていくコトじゃないでしょ?」 「…………明?」 「何?」  怪訝な表情。  なんで? なんでそんな顔するんだろう。  何よりも、どうして。  コイツはこんな風に、オレと話そうとしてるんだろう?  これじゃあまるで……オレ達が凄く親密な仲みたい。 「どしたの?」  藤崎の声が震えた。 「何が?」  オレの声は震えなかった。  絶対的な温度差。  感じたのはオレだけじゃないはず。 「………………ごめん」  呟いた藤崎は、それだけ言ったら、苦労して登ってきた木を、下り始めた。 「…………」  何も言えずに見送りながら、ふと。  耳の奥でメロディーが鳴り始める。 「………………ふじさき?」 「ぇ?」  下りかけの中途半端な格好で見上げてきた藤崎に、 「……オレのこと、知ってるの?」  そう聞く。  そしたら不意に、藤崎は痛そうな顔をした。 「知ってる。……いっぱい……明のことは、知ってるつもり。……色んなコト、知ってるつもり」  苦しそうな声だった。 「……じゃあ……この曲も知ってる?」 「ぇ?」  首を傾げた藤崎に、歌ってみせるのは。  山ほど見つけた、誰かと一緒に作った曲の中でも、自分が一番好きだと思った曲。  そしたら藤崎は、目を見張った後で。  泣きそうな顔しながら、ゆっくりと口を開いた。  その音と声は、いつも耳の奥で鳴っていた声で。  今度は、オレが呆然と見つめ返すことになった。  ゆっくりと、また登ってきた藤崎は。 「…………明、ひとつ、教えて?」 「うん?」 「……オレのこと、解ってるよね?」 「藤崎、でしょ?」  オレの答えに、ちょっとだけ顔を顰めてから。  ポケットをゴソゴソ探って。 「……覚えてる?」  ゆっくりと、手を広げた。 『ゆーとー!!』 『なに、どうした!?』 『あげるー』 『へ?』 『旅行に誘ってくれたお礼』  唐突に浮かんだのは、夏の風景。
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