act.11

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「ところでさ。どーすんの?」 「何が?」 「ズボンの裾、濡れてるよ?」 「…………結人なんて靴までびしょ濡れじゃん」 「これは、明のせいでしょ。無理矢理引っ張り込むから!」  笑う結人に、笑って見せた。 「大丈夫。すぐ乾くよ。こんな暑いんだから」  楽しい楽しい旅の終わりは、案外呆気なく訪れた。  体を繋いだことから来る負担が、身体中を軋ませる音に目を覚ますと、結人は姿を消していた。  しょぼいホテルの、机の上。  置かれた一枚の紙切れ。  怠い躰を引きずって、よれよれと手に取ったそれに、愕然としたのを、今でもハッキリと覚えてる。 『ごめん明。黙ってたことがあるんだ。  オレは、2学期から東京に行くことになった。  ホントにごめんな。  でもオレは、絶対に明のことが好きなんだってこと、忘れないで欲しい。  このまま、東京行くけど。  でも、オレは。  明が大好きだよ。』  見慣れた、癖のある字。  東京に行くことになった? なんだよそれ。一言も聞いてない。  黙ってたコトがある? ごめん? そんなんで許せると思ってるの?  何考えてんの? なにこれ。昨日のは、なんだったわけ?  お前、嬉しいって言ったじゃん。  こんな幸せでどうしようとか、バカみたいなこと言ってたじゃん。  何これ。どういうこと?  ふざけないでよ、ホントに。  いい加減にしろよ。  ちょっと待てよ。  どうしろって言うんだよ。  忘れないで欲しい? 都合の良いことばっか言うなよ。 「ふ……ぅっ……っ」  今すぐ、抱き締めてもくれないくせに。  今すぐ、慰めてもくれないくせに。  今すぐ、笑い返してもくれないくせに。 「ゆうと……ッ」  こんな泣いてること、気付かないでいるくせに。  こんな淋しく思ってること、知らないでいるくせに。  こんなにも、哀しくて痛くて苦しくて悔しくて。  どうしようもないキモチでいること、知りもしないで。  都合の良いことばっかり。
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