act.11

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「嘘っ」 「嘘じゃない」 「嘘だよっ……そんな……そんなこと言ったって……どうせまた……置いてく」  大人しく腕の中に収まりながらも、必死で抵抗しようとする明を、宥めるように強く抱く。 「置いてかない。……何のために、こっちの大学受けたと思ってんの? 明のトコに、帰ってくる理由、作るためでしょ?」 「……」 「……明の傍に、いたいんだよ」  ずっとずっと、伝えたかった言葉に、全ての想いを込めて呟く。  あの時だって、オレに力さえあれば、ずっと傍にいた。離れずに、傍に。 「……明」  ぎゅっ、と。力を入れて。抱き締めて。  明の肩に顔を埋める。 「ずっと、明に逢いたかった」  呟きに、明の体が震える。 「………………ゆーと」  小さな声。  何? と返せば。  抱き締めていた体が、逆に抱きついてきた。 「明……?」 「オレがっ……どんな想い、でっ……いままで……ッ」 「ごめん」 「連絡先もっ……どこにいるのかも……っ……ちょっとくらい、知らせてこいよっ」 「ごめん」 「……もっ…………っバカゆーとっ!!」 「ごめんってば」  きつく抱き締める。  結人、結人、と。  繰り返される名前。  狂おしいほどに切ないその声が、じわじわと胸に染みていく。  どれだけ傷つけただろう。  どれだけ哀しませただろう。  どれだけ淋しい思いをさせただろう。  何度ゴメンと謝っても足りないような気がして、ただ抱き締める力を緩めずにいた。  明が泣きやむまでの長い長い時間。  綺麗に晴れた空に近い、大きくて優しい木の上で。 「……明……」  3年間、ずっと。呼びたかった名前を、呼んでいた。
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