act.12

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「……好きだったことも、好きだって言われたことも。……全部忘れたら、辛くなくなると思ったんだ。……痛くなることも、しんどくなることも……泣くことも、なくなると思った。……だから、忘れたんだ」 「あきら……」 「弱っちぃなぁ。オレ」  小さく笑う明は、でも、と付け足した。 「でもさぁ、結人」 「うん」 「…………あの時、ずっと思ってた。……悪いのは、オレじゃなくてお前でしょって」 「っ……」  ぎゅっ、と。シャツを掴む手が震えてる。 「……忘れてる間中、結人のこと、考えてた。……結人のことっていうか、知らない誰かのこと」 「知らない誰か?」 「……ずーっと。オレの名前呼んでてくれる人がいたんだ。オレがハモる歌に、メインで歌ってくれたり。……顔も見えない、声しか聞こえない。ジリジリしたよ、凄く。……誰だよお前、って思ってた」  そっと息を吐き出した明が。  ようやく。  こっちを向いてくれる。 「……だけど、今さっき、解った。……あれ、結人だったんだ。……オレが無理矢理忘れようとしてたから、顔が見えなかったけど……。でも、結人のこと、ホントはずっと、傍に感じてたんだ」 「あきら……」  そぉっと。  指先で顔に触れてくる。 「……ずっと……こうやって……結人に触れたかった……」  ぽろり、と。  止まっていたはずの涙が明の目から零れるのに気付いて、ごめんと、謝りながら指を取る。 「……ごめんな……」  呟きに、自分の目からも涙が零れたのは驚いたけど。  明の泣き笑いに、救われた。 「な、に結人まで泣いてんの」  泣いたままの明に、鼻を摘まれる。 「ヤメろよー」  同じように泣き笑いを浮かべてから、ようやく。 「………………ただいま、明」 「おかえり」  塩辛いキスを交わした。
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