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「……好きだったことも、好きだって言われたことも。……全部忘れたら、辛くなくなると思ったんだ。……痛くなることも、しんどくなることも……泣くことも、なくなると思った。……だから、忘れたんだ」
「あきら……」
「弱っちぃなぁ。オレ」
小さく笑う明は、でも、と付け足した。
「でもさぁ、結人」
「うん」
「…………あの時、ずっと思ってた。……悪いのは、オレじゃなくてお前でしょって」
「っ……」
ぎゅっ、と。シャツを掴む手が震えてる。
「……忘れてる間中、結人のこと、考えてた。……結人のことっていうか、知らない誰かのこと」
「知らない誰か?」
「……ずーっと。オレの名前呼んでてくれる人がいたんだ。オレがハモる歌に、メインで歌ってくれたり。……顔も見えない、声しか聞こえない。ジリジリしたよ、凄く。……誰だよお前、って思ってた」
そっと息を吐き出した明が。
ようやく。
こっちを向いてくれる。
「……だけど、今さっき、解った。……あれ、結人だったんだ。……オレが無理矢理忘れようとしてたから、顔が見えなかったけど……。でも、結人のこと、ホントはずっと、傍に感じてたんだ」
「あきら……」
そぉっと。
指先で顔に触れてくる。
「……ずっと……こうやって……結人に触れたかった……」
ぽろり、と。
止まっていたはずの涙が明の目から零れるのに気付いて、ごめんと、謝りながら指を取る。
「……ごめんな……」
呟きに、自分の目からも涙が零れたのは驚いたけど。
明の泣き笑いに、救われた。
「な、に結人まで泣いてんの」
泣いたままの明に、鼻を摘まれる。
「ヤメろよー」
同じように泣き笑いを浮かべてから、ようやく。
「………………ただいま、明」
「おかえり」
塩辛いキスを交わした。
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