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半年、実質3ヶ月しか世話にならなかった教師達の顔を思い描きながらぼんやりしていると、
「…………今日、行っちゃったんだよ……」
もう一度、最初と同じセリフを繰り返された。
淋しそうな、遠い目をしたままの明に、ムッとするのは自分の器が小さい証拠だろうか。
「……それで?」
不機嫌な声を隠すことさえ出来ずに呟けば、
「…………オレは、笑えたのかなぁって……」
「……は?」
またしても、前後関係のよく分からないセリフを呟かれて、苦笑する。
「見送りの時に、笑えたのかなぁって……」
「泣いたの?」
「泣いてないよ? 朔弥くんが笑ってたから」
「……?」
まだ、何処か遠くを見つめる瞳に、無理矢理自分の顔を映す。
「明?」
「…………結人のこと、もしも知ってたら。……結人が、東京に行く日。……もしもオレが知ってて、見送りに行ったとしたら……。……オレは、ちゃんと笑って、……結人のこと見送れたのかなって……思った」
「…………」
伏せられた瞳。
ちゃぽん、とペットボトルの中身が揺れる。
その水音に思い出すのは、3年前の夏の日だ。
眩しい太陽の下で笑った明を、置き去りにした自分の罪。
思い出して、ツキリ、と胸の奥が痛む。
「……笑顔で見送れたのかなぁ……。……それとも、泣いて結人のこと困らせたかなぁ? ……何も、出来なかったかなぁ……」
「あきら……」
「……オレは、どうしただろう」
開かれた瞳は、揺れて彷徨った後で。
ぴたり、と。こちらを見つめて止まる。
「……オレが見送りに行ってたら、結人はどうした?」
泣いた? 笑った?
からかうようなセリフを紡いだ唇は、けれど唇の端だけが震えてた。
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