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「……………………ごめん」
何も言えずに、ただ謝れば。
驚いた瞳が、ゆっくりと笑いに変わる。
「何謝ってんの?」
「……なんとなく」
その優しいような瞳を見つめていることも出来ずに俯けば、ふ、と。小さく笑う気配がして
「…………結人」
「ん?」
「……キス」
「は?」
「して?」
思わぬ単語にガバ、と顔を上げれば、真っ赤になった顔でそう呟かれた。
「…………どしたの?」
「したくなった」
イタズラっぽい笑みだと思った。
なんとなく、優しいようにも思えた。
これはたぶん、明なりの労りのようにも思えた。
「………………そっか」
思わず笑ってから、真っ赤な顔した明を、けれどそっと抱き締める。
「……ゆーと?」
「……きっとたぶんさ……」
「うん?」
素直に腕に収まった明の温もりを感じながら続けた。
「……明が見送りに来てたら……。……オレは、たぶん……何も出来なかった。……バイバイも言えなかったと思うし、こうやって、抱き締めることも……格好いいことも言えなかった。……泣けもしなかったと思う。……ただ、立ってることしか、出来なかったと思うよ」
「…………そう」
「うん」
華奢な体を離して、頬に唇を寄せる。
「…………そっか」
「うん」
微笑った明が、同じように頬にキスをくれて。
「……そっかぁ……」
肩に顎を載せた後で、明が耳元でくすくす笑った。
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