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寒い寒い朝だった。
制服の下に何枚着込んでも、どうしようもないくらいに寒い日で。
学校指定のウインドブレーカーなんて大して暖かくもないし、マフラーをしたところで寒いものは寒い。
大して変わりもしないのに腕をさすったりなんかして。
「さっむいわー」
「ありえんなー」
そんな声が耳に入ってくる中で、キョロキョロと彼を捜す。
アイツが転校した後、遅刻の回数が増えたと聞いて以来、駅に着いてから彼の姿を探すのが日課になっていた。
こんな寒い朝は、寝起きのイイ人間でも布団から出たくなくなる。
電車が来るまで、後5分くらいか。
今の時点で駅にいなければ、電車には間に合わないし、HRにも間に合わない、なんて思った所で。
「…………明くん?」
ホームの、端。
寒そうなブレザー姿で、彼が立っていた。
マフラーも見あたらない。
地面に置いていた鞄を取り上げて、早足で歩み寄る。
「明くん」
掛けた声に。
振り向いた彼の。
瞳が、曇る。
「……あぁ、朔弥くん……」
落胆を顔に浮かべながらも、いつもと変わらない声がそう紡いで。
あぁ、きっとアイツが呼びに来てくれるのを待っていたんだな、なんて思った。
無意識のうちに、アイツを求めてるんだろうなと、思った。
全て忘れても、ココロの奥底では、アイツを求めてるんだと。
「寒くないの?」
「ん」
「嘘。唇真っ青だよ」
巻いていたマフラー外して、彼の首に巻き付けてやる。
「いいよぉ」
エンリョしながらも、思わず零れたのはホッとしたような溜め息で。
「いーから。してなよ。見た目が寒そうなんだもん。こっちまで寒くなるよ」
「……ありがと」
儚い笑みと一緒に、そう呟いた彼を。
守りたいと、この時に強く思った。
アイツの代わり、なんかじゃなく。ちゃんと、守りたい、と。
「……もうすぐ電車来るよ」
時計を見て嬉しそうに笑う君を、見つめていた。
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