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君との思い出の一つ一つが
忘れられない宝物。
*****
あれは、小学校のキャンプの時のこと。
近所の子供と大人が、全部で10人くらい集まって行った、夏休みの思い出作りのイベント。
今でもハッキリ覚えてる。
『明っ!!』
『ゆうと……ッ、ゆうとっ!!』
抱きついてきた温もり。
涙声。
最後に見つけた、笑顔。
──好き。
あの日あの時、自覚した感情。
楽しいキャンプが悪夢にすり替わったのは、昼食を食べた後の遊びの時間。
遠くに行ってはダメ。
危ないことも、もちろんしてはダメ。
そんな約束に頷いた、1時間ほど後のこと。
ズキズキと、足が心臓にすり替わったような錯覚で目が覚めた。
「い……った……」
足に手をやって、濡れた感触。
ギクリとしながら手の平を見れば、血に濡れていて。
「──っ」
驚きながら痛い足を見れば、今までに見たこともないほどの出血。
あの崖から落ちたのだと、思い至ったのは泣きながら顔を巡らせてから。
「だ、れか……っ……誰かいないの!?」
泣いても喚いても、誰も応えてはくれない恐怖。
「ゅうと……ゆうとー……」
恐怖の中でひたすら呼ぶ、幼馴染みの名前。
足の怪我のせいで、動くこともままならない。
呼んでも、誰も来ない。
──恐怖。
「ぁ……すけて……っ……助けてよぉっ」
大声で泣きながら、ひたすらに思い描くのはアイツの笑顔で。
「ぅと……っ……ゆうとっ」
何分、何十分、何時間。
どれだけの時間が経ったのか。
もうこのまま死ぬんだと、泣きながら思い浮かべたその淋しさに、最後の叫びを唇から零そうとした時だった。
「明っ!!」
ずっとずっと思っていた声と、顔。
「ゅぅ、と……ッ、結人っ!!」
動かなかったはずの足が動いて。
気付いたときには腕の中。
「心配しただろっ!?」
「ゅぅっ……結人っ」
恐かったと、叫びながら。
縋った腕の温もりに、感じていたのは言いようのない安堵。
「明……。──もう平気。大丈夫だよ」
泣きじゃくる背をあやす手の平が、優しかった。
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