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言うなれば、デジャヴ。
新幹線を背にして、君と向かい合うこの瞬間に、思い出したあの冬の朝。
君の隣りに、アイツが戻ってきた時に。
オレの出番はなくなったんだと悟った。
だって、いつも泣き出しそうに不安定だった彼が、今はとても幸せそうな空気を身に纏っているから。
守りたいと思いながら、結局は守りきれなかったんだと思う。
彼が自分に頼ることは、一度もなかったから。
「頑張ってね」
そんな苦い思いを噛んでいれば、彼が。
そっと呟いたセリフに。
「うん、ありがとう」
取り繕って笑えば、彼も笑い返してくれる。
「帰ってくることがあったらさ、また遊ぼ?」
優しいセリフ。
「そうだね。連絡する」
「ん。待ってるね」
にっこりと、笑う彼。
鳴り響く、発車のベル。
彼が、顔を上げた。
「…………明くん」
「何? 朔弥くん」
紡がれた名前。
優しい瞳。
「…………元気でね」
いっそ好きだと言ってしまえばいいものを、どうでもいいセリフしか口に出来ない、自分の意気地のなさを笑う。
「……うん。朔弥くんもね」
「…………じゃあ、ね」
「うん」
乗り込む。
ドアが閉まる。
揺れる手の平。
泣きそうになって、焦る。
言いたいことも言えずに、別れることが、こんなにも悔しいなんて。
涙と一緒に息を飲み込んで、歯を食いしばるけれど。
彼が。
「絶対、また会おーね」
満面の笑みで。
大きく手を振りながらそんなことを言うから。
思わず笑ってから、目尻を涙が伝うのが分かる。
「うん」
大きく、頷くだけで精一杯。
動き出す新幹線。
彼が一瞬驚いた後で。
けれど、変わらない笑みが
「またね」
そう紡いで、遠くなっていく。
見えなくなるまで、手を振っていてくれた彼に。
同じように手を振り返して。
「…………だいすきだったんだ……」
呟けたのは、窓の外が見慣れない風景に変わった後だった。
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