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君の腕の中でホッとしながら、目の前にあった耳の端っこを軽く噛んでやる。
「っ!? 何、どしたの?」
「オレねぇ結人」
「何?」
慌てる君を、ぎゅっと抱いて。
「……あの日の結人に、もし今、会えても。……お前はそのままでいいんだよって、言うと思うんだ」
「……明?」
「…………たぶん、それでいいんだって、言うと思う」
肩に額を擦りつけて言えば、
「……どうして?」
そう問いかけられる。
うーん、と小さく呟いてから。傍の温もりに、もっと近付こうと顔を押しつけた。
「分かんないけど、でも……。……あの日、結人とちゃんとバイバイしてたらさ……オレは、待てなかったかもしれない。……結人が、帰ってくるの」
「明……」
驚いたような淋しいような、静かな声を聞きながら、ゆっくり口を開いた。
「待てなかったっていうか……待たなかったっていうか……。……きっとさ、……諦めてたと、思うんだ」
帰ってくるのか来ないのかも分からない人間と、トモダチを続けていくのは簡単でも。
愛、を。
続けて行くには、まだまだ幼すぎたと思うんだ。
始めのうちは、焦がれたかも知れない。狂おしく苦しんで、今すぐにも駆け出したくなったかも知れない。
けれど、3年。
互いに知り得ない時間が、その間、絶えず流れていく──。
バイバイ、と別れてしまえば、想い出に変わり。
愛は愛でも恋でもない、優しい記憶へと変化しただろうから。
今日、朔弥くんに言った「またね」と同じ「またね」は、言えなかっただろうと、思うから。
「……だからもう…………。……自分のこと、責めなくていーよ」
「っ……」
ぽんぽん。と背中を叩いてやれば。
君の体がギクリと揺れたのが分かる。
「……な、んで……」
「知ってる。結人、ずーっと、自分が悪いって、思ってたんでしょ?」
「……」
「でも、全然悪くないよ。……悪くないから。……自分のこと、許してあげなよ」
もう一度、かぷ、と今度は肩を噛んでから。
「ゆーとー」
「うん?」
震えた声で返事をするのに、笑いながら言った。
「今日晩ご飯、焼き肉しよ、焼き肉」
「………………。オレ噛みながら言うのヤメてくれる?」
「いーじゃん。焼き肉」
「はいはい」
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