【三章】さまよう巨影

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1  澄み切った空、太陽の光は淡く地へ降り注ぐ。少し強めの風が吹いており、彼女のブロンドの髪を揺らして通り過ぎた。 ダークグリーンの瞳に写る景色は青いコバルトブルーの海面が果てしなく続いている。きらめく太陽の下には似つかわしくない夜用の夜会に行くためのドレスをまとった女性が木製のデッキにたたずんでいた。ドレスもいくらばかりか破れている箇所があり、激しいことがあった跡がうかがえる。  彼女はため息をついて踵を返した。このドレスはもうだめだ。新しいものに着替えよう。そう思って建物の中に入ろうとした。 すると思わぬ人物が現れ、思わず足を止めた。 「やぁ、グラーネじゃないか。今はプレトにいるんじゃなかったのか?」 「ハスター様、お久しぶりですわ」  グラーネはドレスの裾を持ち上げ優雅に挨拶した。 「少々予期せぬことが起こってしまいましたので、一度戻って来たんですわ」  彼女は現れた黒髪で青い瞳の青年に笑顔を見せながら答えた。ハスターは黒の炎のリーダーだ。 そしてグラーネは黒の炎でハスターを支える幹部の一人。二人がいるのはプレトからかなり離れた距離にある黒の炎の隠れ家の一つだった。  魔王から逃れたのち、グラーネはこの場所に転移してきた。プレトは夜だったがこちらはまだ日が高い。おそらくプレトから半日以上時差のある場所だ。  ハスターはグラーネのドレスが破れているのを見て予期せぬこと、というのが戦闘行為に及んだのを推測させた。 「もしかして戦ったのかい?」  グラーネは静かに頭を上下に振る。 着替える前にハスターに会ってしまい、彼女ははしたない格好でいる自分が恥ずかしく感じた。 実際少しドレスに埃がついて裾が数か所破れているだけではあるが、グラーネにはそれすら恥じらいを覚えるのだ。 「ハスター様、ルークに会いましたわ」  それを聞いたハスターの表情が少し曇った。だがすぐにいつもの爽やかな顔に戻った。 「そうか。あいつは元気にしてたかい?」 「それはもう。相変わらずでしたわ」  グラーネは笑わなかった。ハスターの気持ちを思うと微笑ましく笑顔を作るなど出来なかった。 
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