【四章】未熟な魔導士

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1  石でも土でもないかといって金属とも違う材質で作られてた壁と床に囲まれた部屋だった。 四つ角で四角い部屋だ。同じ作りの部屋があと何十とある。  置かれている椅子や机も飾り気がなく実にシンプルだ。 唯一黒の革張りのソファが2つその部屋にある家具としては飾り気のあるものだったが、それだけが妙に浮いていた。  そのソファに艶やかな雰囲気を持ったダークグリーンの瞳を持つ女性が座っている。  スリットの入ったビロード地のスカートから覘く足を組んでいる姿は実に優雅だ。  彼女の前にも同じソファがあって、そこに赤毛で黒い目の男性が座っていた。  彼は着古した白衣を羽織り中のシャツもアイロンがかかっておらず、しわくちゃなままだった。  髪もぼさぼさで目の下には隈が出来ていた。 身なりを気にしている様子が全くと言っていいほど感じらなかった。 「また徹夜で研究なさってたんですの?」 「あーあー、まぁそんなところかねぇ」  赤毛の男性は眠たそうに頭を掻きながら答えた。 彼は彼女より一回り以上年上だが隈や身なりのせいでもっと老けているように見える。  落ちくぼんだ不気味な眼で彼女の方を見やると気怠そうに要件を訪ねた。 「グラーネ、あなたも忙しい身の上でしょうに、わざわざ私を訪ねてくるなんてどういう風の吹き回しです?」  黒の炎の幹部、グラーネの名を呼んだ彼は妙にねばっこいしゃべり方をする男だった。 グラーネは最初、彼の身なりやしゃべり方に違和感を覚えていたが数年経って今は慣れてしまった。 「プレトで我々の出入りを自由にするという交渉中にトラブルが起きましたの。それで一旦、あそこから退いてきたのですわ」 「おや?プレトはあなたが時間をかけて詰めていった案件だというのにしくじったとは驚きました。久しぶりに研究以外で興味のある出来事ですねぇ」  グラーネの失態が面白いのか、彼はニヤついた笑いを浮かべていた。  不気味な笑顔にグラーネは目を細め、咳払いをすると彼の言ったことを否定しながらこう返した。 「しくじってはいませんわ。一旦、と言ったんです。落ち着いたら今度こそ、要求を取り付けに行きます」  しくじったなどと言われるのは心外だったので、決して失敗ではないということを彼女は主張した。
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