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「まぁまぁ、疑っても何も進みませんよ。魔王様、ここは彼の好意に甘んじましょう」
グレイスが間に入って話をまとめようとした。
魔王は舌打ちして渋々といった表情でこれからの予定に納得した。
「すいません。ルークさん、それでは道案内よろしくお願いいたします」
「ああ、もうちょっとマオを休ませたら出発しよう。
あとグレイス、俺にさん付けは要らないから」
グレイスは微笑して頷いた。
「じゃあ俺は宿を出る手続きをしてくる」
ルークはまた部屋を出て言った。
グレイスは魔王から刺すような視線を感じて振り向いた。
「グレイス……マオとは誰のことだ?」
「えっとその、魔王様の名前を聞かれてそれでとっさに思いついたのが、その名前でして」
やはり気に入らなかったのか、魔王のジト目にグレイスは顔を反らした。
「グレイス、私を見ろ」
「本物の名を告げるのは出来ませんし……」
グレイスは歯切れが悪い。
自分を睨みつける魔王を直視出来ない。
「本当の名を人間に告げていたら、どうなるかわかっているな?」
「勿論です。私が魔王様の名を呼ぶことなどおこがましいことです。それに魔王様の名を知ることの意味も重々承知です」
「わかっているならいい。私をなんと呼ぼうが人間の勝手だが真の名は決して告げてはならん」
魔王はグレイスの名付けのセンスを疑いはしたが、それ以上は咎めなかった。
時に様々な呼び方をされる魔王は自分の呼び名がどんな風に呼ばれようが、さして興味はなかった。
グレイスは安心したように長く息を吐いた。
魔王とグレイスは手掛かりを求めて新たな地へ。
何故彼らが勇者との戦いから違う場所へやってきたのか、という謎の答えはまだ欠片も見つからなかった。
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