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三人の会話が止んだのを見計らったように、別のテーブルで一人で飲んでいた旅人が立ち上がった。
厚手のマントに身を包み、つばの広い帽子を目深にかぶっている。
男は下を向いたまま三人のテーブルまでゆっくりと歩いてきた。
「あ、なんだてめぇ? 俺達に文句があるのか?」
赤い蜘蛛が凄んでみせる。
が、つば広帽の男は動じない。
「少し訪ねたい事がある」
男がそう言って顔を上げた。
左の頬に十字の傷のある暗い目をした男であった。
男の目は、蜘蛛の兄弟など居ないかのように無精髭の男に真っ直ぐ向けられている。
「あ? なんだ?」
無精髭の男が飲むのを中断して訝しげに顔を上げた。
「魔女はどこに居るか?」
「噂じゃ峠の先に居るらしいぜ」
「魔女の噂は真実か?」
「さあな……知りたけりゃ峠を越えてみることだ」
二人の男はそのまま数秒睨み合った。
「そうか……邪魔したな」
十字傷の男がそう言って背を向ける。
「まちなよ」
無精髭の男がゆっくりと立ち上がった。
「気に食わねぇなぁ」
そう言う割には無精髭の男の顔には今まで見せなかった笑みが浮いている。
「何が気に食わねぇって、おまえが怯えてねぇのが気にくわないのさ」
「怯えなければいけないのか?」
「そうだ。俺の前で怯えないのはめくらと死人だけってことになってるんでな」
無茶な言い分である。が、十字傷の男は表情を変えない。
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