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「めくらと死人だけか。では俺も怯えなければいけないことになるな」
「ああ。だが、おまえを斬って死人にしちまえばおまえは怯えなくても良いことになる。名案だと思わないか?」
無精髭の男の笑みが更に大きくなる。
狂気。と、そう表現しても良いような異常性を帯びた笑顔である。
「斬り合いをしたいのか? どちらかが死ぬことになるぞ?」
十字傷の男のほうは相変わらず無表情。まるで他人事のような顔である。
「どちらか?」
無精髭の男はもう溜まらないと言った感じで声をたてて笑い出した。
「くっくっく。どちらか、っか。こいつはいい。俺はおまえが気に入ったぜ。今すぐ殺してやるから外に出な」
無言で立ちつくす十字傷の男の肩を、青い蜘蛛の男がぽんっと叩いた。
「諦めな。おめぇはゴーサラの死神ウィルソン様に気に入られちまったんだ。死ぬしかねぇんだよ」
十字傷の男は小さく舌打ちをして外へと繋がる扉に向かって歩き出した。
死神と呼ばれた不精髭の男が後に続く。
「俺が戻ってくるまで誰も外には出るなよ。出た奴はその場で殺すぜ」
死神は外に出る直前にそう言って場を一睨みした。
蜘蛛の兄弟が神妙な顔で頷く。
他の旅人達は、とにかく自分の身に災難が降りかからないように下を向いていた。死神と呼ばれた男も、十字傷の男も、どちらも人を何人も斬ったことがある凶状持ちにしか見えない。普通の旅人にとっては、どちらが勝とうが負けようが、なるべく関わり合いたくない存在なのだ。
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