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「チクショウ、追うぜ、兄弟」
そう言って走り出そうとした赤蜘蛛を青蜘蛛が止めた。
「やめろ。追うんじゃねぇ」
「ちっ、何ビビってやがんだよ? どんな凄腕か知らねぇが、毒蜘蛛兄弟がこのまま黙って引き下がるワケにいかねぇだろうが? それに野郎は手傷を負ってるぜ」
赤蜘蛛の言葉を裏付けるように、うっすらと積もり始めた雪の上に点々と赤いシミが付いている。恐らく死神との斬り合いで傷を負ったのだろう。
だが、青蜘蛛は無言で首を横に振る。
「なんでだよ? 野郎は峠に向かってる。今すぐ追えば追いつける」
赤い蜘蛛が青い蜘蛛に詰め寄るが、青い蜘蛛は動こうとしない。
「追いついちゃならねぇ。多少手傷を負ってたとしても、バケモノには近づかねぇことだ」
「バケモノ?」
「思い出したんだよ、おめぇの魔法って言葉でな」
「何を思いだしたって言うんだよ?」
「もう随分と前になるが、頬に十字の傷のある剣士の噂を聞いたことがある。凄まじい剣の使い手で、その上幻術まで操るバケモノだって話さ」
「幻術!?」
赤蜘蛛はそう叫ぶと固まったように動きを止めた。
雪は少しづつ勢いを増し、兄弟の肩や頭にも積もっていく。
どうやらこのまま本降りになりそうな気配であった。
3章:魔女の詩(うた) に続く
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