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木と木の隙間から時折吹き込んでくる風が肌を刺すように冷たい。が、それでも外に居るよりは遙かにマシであろうと思われた。
丸木で組まれた粗末な小屋である。
床にはたっぷりと埃が溜まっている。
猟師達が夏の間だけ使う山小屋であろう。
ぴゅうぴゅうと、すきま風が鳴る。
じゃらん、じゃらん、と、指が弦を弾く。
古びたリュートを鳴らしているのは山高帽を被った若者であった。
片膝を立てる形で腰を下ろし、リュートを抱くように奏でている。
帽子の脇から垂れている褐色の髪が床に届きそうなほど長い。
”雪が舞い、風が鳴る”
”凍てつく指先、凍える心”
リュートの音に合わせて若者が唄う。
”こんな日は、きっと会える”
”黄金の髪、エメラルドの瞳”
”残忍で美しい、シャインウッドの魔女”
「へぇ~、即興にしちゃぁ結構イケてるじゃねーか」
リュートを弾く若者を茶化すように大袈裟に手を叩いたのは、一見して無頼の徒とわかる目つきの悪い男であった。年の頃なら二十五、六。短い銀髪を逆立て、腰には長剣を帯びている。
「どうも」
若者はそう言ってリュートを壁に立て掛けた。
「なんだ。もうやめちまうのか?」
「こう寒くちゃ手がかじかんじゃっていけませんね。一つ弾いたら指を温めないと」
若者は一度両手に息を吹きかけてから、その手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「ふん。根性のねぇ吟遊詩人だな」
銀髪の男はそう言ってごろりと横になった。
「しかしやみませんねぇ。この分だと今日はここに泊まるしかなさそうだ。やれやれ」
「けっ、贅沢言ってんじゃねーよ。野宿するよか百倍マシだ。こんなところに山小屋が有っただけでも有難いと思いな」
「ははは。確かに。こんな日に野宿なんかしたらそのまま永眠しちゃいそうだ」
若者がそこまで言った時、外からドアが開けられた。
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