17人が本棚に入れています
本棚に追加
雪と風を引き連れて入ってきたのは、凍てつくような男であった。
膝下まである長いマントを厳重に身体に巻き付けている。
肩にも帽子にも大量の雪が積もっていた。
「おやおや。また一人来ましたか」
若者が言うと、転がっていた銀髪の男が身を起こした。
「すまぬが、雪が止むまで休ませてもらえぬか?」
入ってきた男の口から凍えた声が出る。
「ええ、いいですよ。と言っても家主はいないようですがね」
若者はくすりと笑った。
「いいから早く閉めろよ。寒くてかなわねぇ」
銀髪の言葉が終わらないうちに入ってきた男がドアを閉める。
男はドアを閉めると部屋の隅まで歩いて行き、若者からも銀髪からも等分の距離を取って腰を下ろした。
男がマントを脱ぎ、帽子を取る。
歳は二十代後半というところか。左頬に古そうな十字の傷跡が有った。
マントを脱ぎ終わった男は何を思ったか、上着も脱ぎ、とうとうシャツまで脱ぎ始めた。
外に比べれば数段マシとはいえ、それでも息が白くなるくらい寒い。
暑くて脱いでいるのでないことだけは確かである。
「おいおい、こんなところでストリッ……」
銀髪の口が”プ”の音を出す前に閉じられた。
露わになった男の左の肩口に、一目でわかる鋭利な刀傷が有ったからだ。
それほど深い傷ではないが、傷口はまだ固まりきっておらず、赤黒い血が滲み出ている。
男は自分の荷物から包帯を取り出すと、右手と口を使って器用に包帯を巻き始めた。
十分ほどで応急処置を終え、男が先刻脱いだばかりの服を着始める。
男の作業が完全に終わってから銀髪が小さく唸った。
「うーむ、こいつはどうして、凄ぇ旦那じゃねぇか」
銀髪が感心しているのは、作業を終えるまで男が一度も顔色を変えなかったからである。普通なら痛みで顔が歪む。
最初のコメントを投稿しよう!