3 魔女の詩(うた)

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 雪と風を引き連れて入ってきたのは、凍てつくような男であった。  膝下まである長いマントを厳重に身体に巻き付けている。  肩にも帽子にも大量の雪が積もっていた。 「おやおや。また一人来ましたか」  若者が言うと、転がっていた銀髪の男が身を起こした。 「すまぬが、雪が止むまで休ませてもらえぬか?」  入ってきた男の口から凍えた声が出る。 「ええ、いいですよ。と言っても家主はいないようですがね」  若者はくすりと笑った。 「いいから早く閉めろよ。寒くてかなわねぇ」  銀髪の言葉が終わらないうちに入ってきた男がドアを閉める。  男はドアを閉めると部屋の隅まで歩いて行き、若者からも銀髪からも等分の距離を取って腰を下ろした。  男がマントを脱ぎ、帽子を取る。  歳は二十代後半というところか。左頬に古そうな十字の傷跡が有った。  マントを脱ぎ終わった男は何を思ったか、上着も脱ぎ、とうとうシャツまで脱ぎ始めた。  外に比べれば数段マシとはいえ、それでも息が白くなるくらい寒い。  暑くて脱いでいるのでないことだけは確かである。 「おいおい、こんなところでストリッ……」  銀髪の口が”プ”の音を出す前に閉じられた。  露わになった男の左の肩口に、一目でわかる鋭利な刀傷が有ったからだ。  それほど深い傷ではないが、傷口はまだ固まりきっておらず、赤黒い血が滲み出ている。  男は自分の荷物から包帯を取り出すと、右手と口を使って器用に包帯を巻き始めた。  十分ほどで応急処置を終え、男が先刻脱いだばかりの服を着始める。  男の作業が完全に終わってから銀髪が小さく唸った。 「うーむ、こいつはどうして、凄ぇ旦那じゃねぇか」  銀髪が感心しているのは、作業を終えるまで男が一度も顔色を変えなかったからである。普通なら痛みで顔が歪む。
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