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「旦那、あんた名前は?」
銀髪が男の顔を覗き込むように聞いてきた。
男は答えない。
「おっと、こいつはいけねぇ。人に名前を聞く時はまず自分からだったな。俺はギンジってんだ。銀狼ギンジって言えばちっとは知られた名なんだがね、どっかで聞いたことは無ぇかい?」
男はほとんど興味が無さそうに首を横に振った。
「そうかい。いや、知らなきゃ知らねぇで別にいいのさ。で、あんたの名前は?」
「名前などどうでも良かろう」
「ちっ、なんでぇ、人がせっかく丁寧に名乗ってやったのによ」
ギンジと名乗った銀髪の男はそう言ってふて腐れたように頬を膨らませた。
「ははは、まあいいじゃありませんか。名乗りたくないのに無理に名乗らせちゃ可哀想ですよ」
若者がそう言って先刻壁に立て掛けたリュートを手に取った。
「僕はアルトと言います。色々な国を旅して詩(うた)を作っています。何かリクエストが有れば唄いますよ?」
アルトと名乗った若者はそう言うとジャランと一つ弦を弾いた。
「ちぇっ、何でもいいから早く唄えよ」
「ギンジさんはリクエストは無いようですね。で、そちらの方、えーと……やっぱり呼び名が無いと言うのは不便ですねぇ……」
そこまで言ってまた一つ弦を鳴らす。
「クロスさん、なんてどうでしょう?」
「クロス?」
訝しげに眉をひそめたのは当の本人ではなくギンジであった。
「ほら、左の頬にバッテンがあるじゃないですか。だからクロス(十字)さん。いかがですか?」
「好きに呼べばいい」
勝手にクロスと名付けられた十字傷の男は投げ槍な口調で承諾した。
「ではクロスさん、何かリクエストは?」
「何でも良いのか?」
「ええ。何かお題をくれれば即興で作りますよ」
「そうか、では魔女の詩を頼もう」
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