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黒い蜘蛛が一匹、テーブルの端を這っている。足を広げた大きさが、調度銀貨と同じくらいであった。蜘蛛は八本の足を前後に動かしながら、ゆっくり右へと移動していく。
空き瓶の底で蜘蛛を潰そうとした酔っ払いの手を、隣の男が掴んで止めた。
「蜘蛛は俺様の守り神なんだ。殺すんじゃねぇよ」
言った男の額に、テーブルの上の蜘蛛よりも二回りほど大きな蜘蛛が這っていた。毒々しい赤い蜘蛛、勿論本物ではない。刺青である。
言われた男は不貞腐れたように空き瓶を転がした。大分顔が赤い。
「蜘蛛はいいから早くやれ」
蜘蛛の刺青男の対面で、髪をモヒカンに刈り上げた男が怒気を孕んだ声を出す。
「へっ、負けて怒りだすなんざ、ガキみてぇだなーおい」
蜘蛛の男はそう言うとテーブルの中央に積まれているカードの山に手を伸ばした。顔には楽しそうな笑みが浮いている。どうやら大分勝っているらしい。
「おっと、こいつは凄ぇぞ。悪りいなぁ、馬鹿ヅキで」
蜘蛛の男はカードを見てそう言うと、自分の前に金貨を十枚積み上げた。
「十枚かよ……」
先刻蜘蛛を潰すのを止められた男が、溜息を付く。
「ふん、ブラフ臭ぇな。十枚一気に来るところがプンプン臭うぜ」
モヒカンがそう言って懐から金貨を十枚出す。
他の二人はカードを伏せた。勝負に降りる、という合図である。
蜘蛛の男がおかしそうに低く笑った。
「くっくっくっ。もう十枚行くかい? ブラフ臭ぇんだろ?」
挑発されて、モヒカンの顔が赤くなる。
「行ってやろうじゃねえか」
両者が更に十枚づつ金貨を積み上げる。
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