1 蜘蛛の兄弟

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「勝ち逃げはいけねぇなぁ兄さん。ここじゃあそいつは御法度だ。帰るんなら勝った金を置いていきな」  立ち上がった男の一人がそう言って蜘蛛の男を睨む。目尻に刀傷があり、どう贔屓目に見ても善良な市民には見えない。 「まぁそういうことだ。おまえは調子に乗りすぎた」  モヒカンの顔に獰猛な笑みが浮かんでいる。   どうやらモヒカンはこの店の常連、蜘蛛の男は初顔、というところであろうか。  「金を置いていけ、だってよ。どうする兄弟?」  赤い蜘蛛の男が笑いを止めずに言うと、青い蜘蛛の男は忌々しそうに舌打ちをした。 「ちっ、この時間の無ぇ時に……困った野郎だ」 「まあいいじゃねぇか。退屈しのぎさ」  赤い蜘蛛の男がそう言って剣を抜く。  それを見て二人を取り囲んだ男達も一斉に剣を抜いた。 「や、やめてくださいよ。やるなら外でお願いしますよ」  カウンターの中でグラスを磨いていたマスターが泣きそうな顔で頼み込む。 「マスター、店の修理代は出してやるから心配すんな。こいつの懐にゃイカサマで儲けた金貨がゴッソリ入ってんだ」  モヒカンがそう言ってマスターをなだめる。どうやら負けた時のことは考えないタイプらしい。12対2。数で考えれば負けることを考えないのも当然かも知れない。が、圧倒的な人数差にも関わらず、蜘蛛の兄弟に怯えの色はない。  真っ先に剣を振り下ろしたのはモヒカンであった。その剣を赤い蜘蛛の男が自分の剣で弾き、モヒカンの体勢が整う前に、横から胴を斬る。モヒカンの腹が横に切り裂かれ、真っ赤な血と共に内蔵が飛び出した。低い呻き声をあげてモヒカンがどっと床に崩れ落ちる。 「や、野郎!」  蜘蛛の兄弟を取り囲んだ男達が一斉に二人に斬りかかる。
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