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マスターはカウンターに隠れるようにしゃがみ込んだ。
剣と剣がぶつかる。剣が肉を切る。テーブルが倒れ、酒瓶が転がり、グラスのいくつかが砕け散った。店の中に小さな台風が吹き荒れている。
三分か、五分か。台風が暴れ回っていたのはそれほど長い時間ではなかった。
静かになったのを見計らってマスターが恐る恐る立ち上がる。
暴風雨の去った店内で、二匹の蜘蛛が楽しそうに笑っていた。
斬りかかった常連客のほうは半数以上が床に倒れてのたうち回っている。
「五人になっちまったなぁ、おい」
赤い蜘蛛の男が残った五人に剣を突きつける。
「さぁて、どいつからいくかな」
五人をいたぶるように剣をぐるぐると回して遊んでいる。
常連客のほうはもう顔面蒼白である。
「どうやら戦意喪失ってところだな。もういいだろう」
青い蜘蛛の男が剣をしまい、店を出ようとする。
「待てよ兄弟。俺達に剣を抜いた奴らをこのままにして行くのかよ?」
赤い蜘蛛の方はまだ満足していないようである。
「時間が無ぇと言ってるだろうが。もう三日も遅れてるんだぜ? これ以上遅れて死神の旦那を怒らせてみろ、俺達だって危ねぇ」
”死神”という言葉が出た途端、赤い蜘蛛の男の顔から笑みが消えた。
「わかった。急ごう」
赤い蜘蛛の男が慌てて剣を鞘に収める。
「おう、オヤジ、こいつは店の修理代だ」
そう言ってマスターに向かって金貨を一枚放り投げた。
どう考えたって金貨一枚では割に合わない。が、マスターは無理矢理笑顔を浮かべて頷いた。へたに逆らってはどうなるかわからない。
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