1 蜘蛛の兄弟

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 二人は店を出ると、酒場通りから馬車の発着所へと向かう。  角を曲がり、発着所がある通りに入ったところで、遠ざかる馬車の後ろ姿が見えた。  「クソっ、おめぇが遊んでやがるから乗り遅れたじゃねぇか」  青い蜘蛛が赤い蜘蛛を睨みつける。 「けっ、前の街じゃぁおめえが女と遊んでて一日遅れたぜ?」  赤い蜘蛛が言い返す。 「ちっ……こんなところで兄弟喧嘩をしててもしょうがねぇ。歩くぜ」 「フェルマットまで徒歩かよ……やれやれだな」 「おめぇのせいだよ」 「なんだよ? 喧嘩はやめるんじゃなかったのかよ?」 「あー、わかったわかった。もう言わねぇからさっさと歩け」  二人は喧嘩をやめて歩き出した。  晩秋の風が街道を歩く二匹の蜘蛛を包み込む。  高度がかなり有るため、真冬並に寒い。 「そいうやぁ、フェルマットから峠を一つ越えたところに魔女が出るらしいぜ」 「魔女? なんだいそりゃ?」  赤い蜘蛛が馬鹿にするように大袈裟に驚いてみせる。 「俺も良くは知らねぇ、さっき街娼から聞いただけだからなぁ……まさか今度の仕事は魔女退治、なんてことは無ぇよなぁ?」 「けっ、死神の旦那がそんな酔狂なことするわけ無ぇじゃねぇか。魔女に莫大な賞金でも掛かってりゃ話は別だがよ」 「だよなぁ……とにかくこんなクソ寒いところまで来たんだ。たっぷり稼ぎてぇもんだ」  二人が言葉を交わす毎に息が白く曇る。  明日辺りはフェルマットの街にも雪がちらつくかも知れない。  そんなことを考えながら、二匹の蜘蛛は歩を速めた。             2章:死神の死 へ続く 
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