17人が本棚に入れています
本棚に追加
二人は店を出ると、酒場通りから馬車の発着所へと向かう。
角を曲がり、発着所がある通りに入ったところで、遠ざかる馬車の後ろ姿が見えた。
「クソっ、おめぇが遊んでやがるから乗り遅れたじゃねぇか」
青い蜘蛛が赤い蜘蛛を睨みつける。
「けっ、前の街じゃぁおめえが女と遊んでて一日遅れたぜ?」
赤い蜘蛛が言い返す。
「ちっ……こんなところで兄弟喧嘩をしててもしょうがねぇ。歩くぜ」
「フェルマットまで徒歩かよ……やれやれだな」
「おめぇのせいだよ」
「なんだよ? 喧嘩はやめるんじゃなかったのかよ?」
「あー、わかったわかった。もう言わねぇからさっさと歩け」
二人は喧嘩をやめて歩き出した。
晩秋の風が街道を歩く二匹の蜘蛛を包み込む。
高度がかなり有るため、真冬並に寒い。
「そいうやぁ、フェルマットから峠を一つ越えたところに魔女が出るらしいぜ」
「魔女? なんだいそりゃ?」
赤い蜘蛛が馬鹿にするように大袈裟に驚いてみせる。
「俺も良くは知らねぇ、さっき街娼から聞いただけだからなぁ……まさか今度の仕事は魔女退治、なんてことは無ぇよなぁ?」
「けっ、死神の旦那がそんな酔狂なことするわけ無ぇじゃねぇか。魔女に莫大な賞金でも掛かってりゃ話は別だがよ」
「だよなぁ……とにかくこんなクソ寒いところまで来たんだ。たっぷり稼ぎてぇもんだ」
二人が言葉を交わす毎に息が白く曇る。
明日辺りはフェルマットの街にも雪がちらつくかも知れない。
そんなことを考えながら、二匹の蜘蛛は歩を速めた。
2章:死神の死 へ続く
最初のコメントを投稿しよう!