12 英雄の詩(うた)

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 幌の中を覗けるくらい近くに来ると、クロスが歩を止めた。 「一緒にどうですか? どうせこの先はレインヒルの街まで一本道なんだし」  アルトがそう言って勧める。  シャインウッドからレインヒルまで行く荷馬車が出ると聞いて荷台に乗せて貰ったのだ。  クロスが無言で乗り込むと、馬車が再び走り出した。 「クロスの旦那、あの後どうしてたんでぇ?」  一番奥の大きな木箱に背を預ける形で座り込んだクロスにギンジが訪ねる。  「歩いていた」  クロスの答えはそっけない。いつものことである。 「ははは、そうか。歩いていた、か。こいつは野暮な事聞いちまったな」  あまりにもシンプルな答えにギンジが苦笑する。  とにかくまあ口数が少ない男である。喋れば喋ったぶんだけ損をするとでも思っているのかも知れない。 「そう言えば、クロスさんはまだ知りませんよね? あの後のこと」  アルトが思い出したように言葉を発した。 「何かあったのか?」  クロスが聞いてくるが、一応義理で聞いただけだと言うように、興味なさげに目を閉じている。 「僕達あれから、伯爵邸に泊めてもらおうと思って行ってみたんですけどね、驚かないでくださいよ、あの後、なんと伯爵とアランさんが何者かに殺されちゃったんですよ」 「ほう……」  相変わらず目を閉じたまま、興味なさそうに低く答えるクロス。張り合い無いことこの上もない。 「まいったな。ちょっとは驚いてくださいよ」  アルトが苦笑する。驚かないでくださいよ、とは言ったものの、少しは驚いてくれないと面白くない。 「まーこういう人だからよ、しょうがねぇさ」  ギンジのほうはもう諦めている。  物事に動じない人間というのは時として居るものだが、ここまで反応の薄い人間も珍しい。
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