12 英雄の詩(うた)

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「可哀想だったなぁ、ソフィアさん」  伯爵とアランの遺体にしがみついて号泣していたソフィアの姿が、まだアルトの脳裏に焼き付いている。 「ふん、俺はああいう湿っぽいのは嫌いだね。どいつもこいつもメソメソしやがって」  ギンジが悪態をつく。 「ソフィアさんはしょうがないでしょう? 父親と婚約者を同時に亡くしてしまったんですよ?」  アランの遺体の前で泣き崩れるソフィアの口からアランと婚約していた事実が語られた時、村中の者がソフィアに同情し、もらい泣きをした。魔女を倒し、村に平和が戻り、これからは幸福な時間が待っている、という時に突如起こった悲劇である。父親と婚約者の死。十六歳の少女にとってそれはもう世界の崩壊に近いくらいの衝撃だったであろう。 「ソフィアさんとアランさんが婚約してたって知ってました?」  アルトの問いかけにクロスは答えない。  既に寝てしまっているかのも知れない。  アルトが再びリュートを手に取り、唄い始めた。  ”喜びから悲しみへ、季節は変わる”  ”王女の目に、ダイヤモンドの涙が光る”  ”英雄よ、何故死んだ。私を残して、何故死んだ”  ”魔女の爪をも跳ね返し、竜の牙をも叩き折る”  ”鋼の身体に鉄の意志。一体誰が君を斬る?”  ”生き残った魔女の手先……”  アルトがそこで不協和音を一つじゃらん、とかき鳴らし、大きく首を振った。 「ああ、ダメだダメだ。やっぱり、せっかく魔女を倒して国を救った英雄が、生き残った雑魚にやられちゃうってのが良くない。まいったなぁ……」 「ふん、おめぇは本当にそう思ってんのか?」  ギンジが馬鹿にするように言うと、アルトがちょっとムッとしたようにギンジを睨んだ。 「僕だって信じたく有りませんよ、そんなこと。でも他に考えようが無いじゃないですか」 「そうかねぇ……あの剣神アランがよ、不意を突かれたからと言ってそう簡単に雑魚に斬れるとは思えねぇがな」 「じゃあ誰がやったって言うんですか?」 「そいつがわからねぇから悩んでるんじゃねぇか。……まさか、クロスの旦那……なワケねぇか。何しろ魔女の面以外にはまるで興味の無ぇお人だからなぁ」  ギンジがそう言ってチラリとクロスを見たが、クロスは目を閉じたまま、軽く寝息を立てている。 「はっ、寝ちまってるよ、この旦那」  ギンジが呆れたように肩をすくめてみせると、アルトも苦笑するしかなかった。
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