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「どっちにしても、やったのが生き残りの雑魚じゃあ上手くないんですよねぇ……はぁ……」
と、アルトが深く溜息をついたその時
「死神」
今まで寝ているとばかり思っていたクロスが低く呟いた。
「死神??」
アルトがびっくりしてクロスの方を向く。
「と、いうことにしておけば良かろう」
クロスがそう言って目を開けた。
「なるほど。魔女の招集に遅れて来た死神が、焼き殺された魔女の仇を討った。うん、悪くない。少なくとも生き残った雑魚にやられるよりはよっぽどいい。クロスさん、そのアイデア、頂きます」
アルトは早速リュートを手に取り弾き始めた。
「魔女の仇だぁ? けっ、冗談じゃねぇ。死神の旦那はそんなお人好しじゃねぇよ」
ギンジはそう吐き捨てると、ふて腐れたように横を向いた。
雪道に轍を残しながら、馬車はゴトゴト進む。
クロスは再び目を閉じて寝息を立て始めた。
アルトの澄んだ歌声が、馬車に揺られて少しだけビブラートが掛かり、白銀の山嶺に木霊する。今日の出来事が、今後シャインウッド周辺で魔女と英雄の伝説として語り継がれていくことは間違いないだろう。だが、伝説の中で英雄を殺したのが誰の仕業になるのかは、今はまだ定かでない。
―― 了 ――
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