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「一人金貨二十枚が高いと言ってるんだろうぜ。もうちっと負けてやんな兄弟」
赤い蜘蛛の隣りで青い蜘蛛が立ち上がる。
「へぇ~高いのかい? 俺たち毒蜘蛛兄弟が今まで何十人斬ってきたか教えてやったほうがいいのかね?」
赤い蜘蛛がそう言って剣を鞘から抜き、片手でぐるぐると回し始めた。
二匹の毒蜘蛛に睨まれた旅人は、助けを求めるようにきょろきょろと周囲を見回した。が、他のテーブルの旅人達は皆、自分はここには居ないとでも言うように息をひそめている。
「やめとけ」
沈黙を破ったのは、蜘蛛の兄弟と同じテーブルで俯きながらちびりちびりと酒を飲んでいた男であった。漆黒の上着が男の肌の白さを際だたせている。健康的な白ではない。くすんだ青を薄く混ぜたような暗白色である。濃い無精髭に覆われた顔は死人のように血の色が無かった。頬がげっそりこけた、見るからに陰気そうな男である。
「だがよ、旦那……」
「俺に同じ事を二度言わせるのか?」
無精髭の男はそう言うと兄弟を一睨みしてから再びグラスに口をあてた。
言われた兄弟は蒼い顔で椅子に座り直した。
無精髭の男が余程恐いのであろう。
「おまえらが遊んでたせいで三日も遅れた。わかってるのか?」
無精髭の男はグラスを睨みながら低い声を出した。
兄弟は言葉を返せない。暑くもないのに顔にうっすら汗を掻いている。
「ふん、まぁおまえらにこれ以上言っても仕方がねぇ。とにかく仕事場に着くまでは大人しくしてな」
「へ、へい」
一応のお許しが出て、兄弟はほっと安堵の溜息を付いた。
「だが旦那、その仕事場ってのは一体どこなんで? そろそろ俺達にも教えてくださいよ」
「おまえらは余計な事を考えずに俺の指図通りに動いてればいい」
「……まさか魔女退治、なんてことはないっすよね?」
赤蜘蛛がそう言うと、無精髭の男がジロリと赤蜘蛛を睨んだ。
「俺の言ったことが聞こえなかったのか? 俺をあんまりイラつかせるなよ」
無精髭の男がそう言って不機嫌そうに酒をあおると、二人は再び黙った。これ以上余計な事を聞いて逆鱗に触れてはたまらない。
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