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「……こういうのは……どこに名前を書くんだ」
「ソーネ……ヒラヒラノウラカモ」
「ふーんそうか」
俺は布地を顔に近づけてひらひらの裏を確認する。
確かに書いてある。なんとも野性的な文字で。
多少スイートスポットが黄色くなっているのは使い古している証拠だろうか。
小さい頃の妹のあれもこんな感じだった気がする。
今や『お兄ちゃんエキスが染みるから一緒に洗わないで』と拒絶反応を示すまで成長してしまった。
いや、原因は俺だ。
「……門脇 留海香」
「フーン」
「なぁ、この門脇って誰だか知ってるか?」
「ウン、シッテル」
「そうか。じゃあそいつに返さないとな」
「……ソウヨネ。カエサナイトイケナイヨネ」
ぱんつとは言え、これは人の所有物だ。落した本人に返すべきだ。
それは人間として当たり前のことだが、こんなものはどう返せばいいのだろうか。
ジップロックで封して下駄箱に入れておけばいいのだろうか。
「……ん?」
そういや、俺は誰と話しているのだろう。
ここには俺しかいないわけで、エア友つくる程の精神的病気を患ってるわけではないのだが……なにか嫌な予感がする。
ふと、後ろからお花畑に咲く一輪の薔薇のような存在感がぞっと背筋を刺激する。
怒り、恐怖、デス。
不吉な三拍子が脳細胞を刺激。
やばいやばいやばい。
「あ……あの……つかぬことをお聞きしますが、お名前は……」
「…………」
答えない。
あー怒ってる怒ってる。
脳天に当たっている堅物は拳銃か伝家宝刀的ななにかでしょうか。
「……カエセ」
「……はい。どうぞ」
俺はパンツを後ろに投げる。
顔を確認する余裕なんてない。
「……ネェ。ニンゲンノキオクハノウテンカチワレバワスレルヨネ?」
「た……多分、この数分間の出来事は……忘れるのでは?」
後悔した。
どうやら彼女の殺る気スイッチを押してしまったらしい。
「……イチゲキヒッサツ……エターナルクライシス……!!」
刹那、脳天を狙いすました無数の突きが襲う。
……てか、それどー考えても一撃必殺じゃないですよね。
ここから、俺の記憶は空白を挟む。
ちくしょー……これなら警備員に見つかった方が数倍ましだったような気がする。
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