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灰色の少年
神など居ない。
それは誰もが知っていた...。
それなのに何故こんなにも、この街で暮らす者達は、その存在に脅えているのだろう?
少年は願っていた。
皆居なくなればいい...
この街に天の裁きが降ればいいのにと..。
最初に父親が居なくなった。
父親は、僅かばかりの貯えを全て分捕り、
何かから逃げるようにこの街から消えた。
続いて母親が居なくなった。
父親が消えて稼ぎ口が無くなった。
幼い息子を抱えた女は、生きる為に
身を売った。
痛みを誤魔化す為の幻覚の毒薬。
腹を蹴って宿った命を何度か殺し...
そして壊れて...
道端でゴミのように死んだ。
気が付けば、少年だけが生き残っていた。
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「うっ...」
小さな呻き声を上げて少年は目を覚ました。
そこは、暗い地下の小さな物置だった。
「くそ...っ..」
独り言を呟いて少年は起き上がった。
10歳くらいの、まだ幼い少年だ..。
青い瞳に灰色の髪の毛。
薄汚れた服を着ていて、肌は白くてとても
痩せている。
酒の匂いが鼻をつく。
嫌な匂いに吐き気を催した少年は、フラフラと立ち上がり覚束無い足取りで地下室から
地上へと続く階段を昇りだした。
外は明るく、とてもいい天気だった。
地下室を上がるとそこは、少年が下働きを
勤める小さな酒場のフロアとなる。
昨夜、悪ふざけが過ぎた客が少年に酒を
飲ませた。
少年は酔っ払い、地下室へ逃げ込んだがそのまま意識を失ったらしい..。
既に夜は明け、店仕舞いの時間はとっくに
過ぎてる。
店主も家に帰ったようで、酒場には誰も
居なかった。
―今夜は木っ酷く叱られるな。
少年は小さな溜息を吐いた。
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寝庫へ帰ろうと、少年は酒場をあとにした。
サラサラと流れる風が気持ちいい。
昼間のこの辺りはとても静かだ。
時折、野良猫が小さな泣き声を上げて路地の隅へ逃げてゆく。
歓楽街の裏にある、水簿らしい下町。
道端に倒れている酒瓶を抱えた男が、
生きているのか死んでいるのかも解らない。
だが、そんなものを気にする人間など、この町には一人も居ない。
少年も例外なく、そこに誰の死体が転がって居ようと、特に気にすることもない。
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