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教室に入ると、窓の外を眺めている友人を見つけた。
「おはよ。しぃちゃん」
「…佐奈か。おはよ」
少し影があって、近寄りがたい雰囲気のある椎名千影(しいなちかげ)はいつも一人だった。
誰かとつるんで歩き回る意味が解らなければ、毎日話す事も無い。と前に本人が言っていたので、一人でいる理由はそこにあるのだろう。
「今日の調子は?」
「ん~…上々かな」
今日は少し機嫌が良いようだ。
窓際の後ろから三番目の席が佐奈の席。
しぃちゃんは大体佐奈の席を背後に窓の外を見ている。
「…………」
「…………」
無言が多く、会話は少ない。
そこに相手が居ればそれで良い。
それが二人の『友達』と呼べる形なのだ。
席に着いて、教科書や筆記用具を鞄から机の中に移し終えると、佐奈は頬杖をついてしぃちゃんの背中を見つめた。
「…来月で終わりか」
視線を外さずにしぃちゃんが呟く。
「推薦貰ってるから高校も一緒だね」
笑顔で佐奈が言うと…
「……嫌な事思い出したよ」
なんて、本当に嫌そうな顔で振り返って言うしぃちゃん…。
「ひどっ!」
「でも…佐奈だから良いや」
視線を外に戻す瞬間、しぃちゃんは少し笑った。
そう、しぃちゃんはこういう人。
普段なかなか笑わないし、口を開けば冷たい言葉ばかり…けれど、本当は凄く相手の事を考えている優しい人。
そんな良い部分を佐奈だけが知っていた。
「椎名先輩!」
けれど最近は…
「…またか」
「憧れの椎名先輩との思い出作り!」
「………分かってるよ…」
「…本当は嬉しいくせに」
「佐奈!うるさい!」
教室の入り口で待つ下級生の女の子たち。
その途中で佐奈に指を指して渇を入れるしぃちゃん。
(本当に素直じゃない…)
しぃちゃんの素敵な笑顔や、優しい部分に気付いている人も増えて、あぁして教室まで訪ねてくる下級生が居る。
少し鬱陶しそうにしていたけれど、結果…微笑んじゃったりしている所がしぃちゃんらしい。
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