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気がつくと、俺は見たこともない場所にいた。
最初に感じたのはふわふわと頼りない地面。
本来なら白いであろうそれは暗いこの空間で、何かを反射したように淡く金色に色付いていて。
導かれるように見上げた空には金色の月が冷たく輝いていた。
その他は、闇。
光源があり、それを反射する地面があるにも関わらず、圧倒的に存在する闇。
不気味で恐怖すら感じるのに、不思議と惹かれる、美しくて幻想的な場所に俺はいた。
ここは……天国か、地獄か。
天国にしては妖しさがあり、地獄にしては美し過ぎる。
……どちらにしても死んだのは確実か。
何せはっきり覚えている。
俺は、トラックに轢かれて死んだんだ。
たった16歳で。アイツのせいで。
苛立ちを紛らわすために叩いた地面は俺の拳を受け止めることなく、ずぼりと沈んだ。
『あら、そんなことしちゃいけないわ』
思わず、舌打ちした時聞こえた誰かの声。
俯けていた顔を上げると、そこにはいつの間にか1人の女がいた。
紫がかった黒い髪と瞳。
年は俺と同じか少し上位にしか見えないのに、極上の顔に浮かべる微笑みは幼い子を見守る母のもの。
美しい景色すら霞むその美貌から目を離せないでいると、その女は更に笑みを深めた。
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