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「……いいから、これ外せよ」
低い、低い声。
しかし、横暴で短絡的に見せかけて、実のところ忍耐強く冷静のようだ。
まさか、わざと乱暴に振舞ってるとか?
俺だったら、何かしらの暴言を吐いてそうな場面でのこの様子に感心する。
「悪いが、俺には無理だ。ここの主が来たようだから、そっちに言ってくれ」
出るタイミングを見計らっていたのか、さっきからずっと陰に隠れているシエラに目を遣る。
『……外してあげてくれる?』
おずおずと出てきたシエラは、虚空に何かを言い、そして俺たちへと顔を向けた。
「……ごめんね?大丈夫?」
「………チッ」
舌打ちしてそっぽを向くローグにどう対応すればいいのかわからなかったのか、中途半端に手を伸ばして。
それから諦めたのか、手を下ろして咳払いをして話し始めた。
「えっと、ようこそ。何もない所だけど、ゆっくりして行って下さい。……とりあえず、上に行きましょう」
シエラはいつもとは少し違った服装をしていた。
上半身はいつもと同じ、作務衣のようなものに、紫の帯。
ただ、下半身はズボンではなく、足首まである長い白のスカートを履いていた。
……それから、目深に被ったフード付きマント。
おそらく、暗いところで光る目を隠すためだと思う。
けど、いくらなんでも部屋の中でフードは。この部屋明かりついてるんだし。
俺が喋った毒のことと合わさって、この上なく怪しい。
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