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大学の授業はつまらない。
だだっ広い講義室は、講義者の声が全体によく響くようにできているものだ。
上へ上へとよく声が響くように、できている。
その日、講義室前方の立派な木製の卓上には古びた分厚い本がおかれていた。
「――であるに、昔は信じられていた。これが世界の破滅の予兆なのだと…」
講義室によくとおる教授の声はおどけた調子だ。それに反応するかのように、百人足らずの受講者の学生は「くすくす」と押し殺して笑うのだった。
前方中央のスクリーンには月食と日食の画が対に表示されている。
「では、月食と日食の違いを言える子はいるかな?」
生徒の心を掴んだ教授は親しみやすい声色で、講義室全体を伺った。
一人の生徒が、「月と太陽の違いかな?」なんて、まぬけな返事をかえしたものだから、
そうだなと、呆れて微笑む教授の「他には?」という問いにますます他の生徒は当てられまいと、教授との目線を反らした。
そんな彼らを目の前に苦笑の顔がにじみ出る教授は、窓際の一人の少年に声をかけた。
少年はいつもこの授業中、窓の外をただみつめている。少し独特な雰囲気を醸し出している少年だった。
容姿は周りの受講生よりも幼くみえる。
否、その違いよりも何よりも別格に見えるのだ。
染めていないきれいな銀色の髪は太陽の光に照らされ、きれいな夜の月色である。
くせのあるウェーブは天然なのだろうか。
恐ろしく端正な顔立ちからは、少年が何を考えているのかはわからない。
「きみ、こたえられるかな?」
一斉に講義室内の視線が銀色の髪の少年に集まった。
少年は窓に目線を預けたまま、夜の静けさに似た透き通るような声で返答をした。
「月が奪い、影が侵す」
教授は眉間にシワをよせてしまった。
合っていないとは言えないが、あまりにもその返答は抽象的すぎるのだ。
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