109人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
夫、圭介とは結婚して8年。ケンカなんてしょっちゅうだ。
今日は、圭介の好きなアイドルのCDを、圭介が何枚も購入したことが原因だ。ジャケットの写真が違うだけなのに、複数枚買う心理が、茅夏には到底理解出来ない。
で、つい言ってしまった。
「私だって、買いたいものいっぱい我慢してるのに」
「我慢なんかしなくたって、買えばいいじゃないか」と夫は主張し、妻は彼の給料明細と、預金通帳の残高を見せつけて。
「何処にそんな余裕があるって言うの?」
と、やり返したから、後はもう坂道を転がる雪の塊のように、ふたりの怒りと罵倒は大きくなるばかりだった。
実にくだらない。振り返って客観的になってみれば、些細すぎること。なのにどうして、「出てく」「出て行け」そこまで、言って言わせる争いに発展してしまうのか。
(要は、お互いに思いやりがないんだよね)
前はこうじゃなかったのに、と思っても、いつからこうなってしまったのか、茅夏にはわからない。おそらく圭介にもわからないのではないか。
大学の先輩後輩だった茅夏と圭介は、お互い初めての彼と彼女。毎日会いたくて、会ったら1分1秒でも長く、そばにいたくて。
彼に送って貰う家路が、もっと遠ければいい、とゆっくりのんびり歩いたりして。
そんな可愛い時期もあったのだ。思い返すと、くすぐったくて、だけど大事な記憶。
結婚して一緒に暮らすことは、ふたりの夢がかなったのではなく、ふたりの夢を破壊してることだなんて、思いたくないのに。
茅夏と圭介の赤い三角屋根の家は、もう見えなくなってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!