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スターバックスのテラス席に座り耳にはイヤホンをつけ、両足をテーブルに乗せながらという行儀の悪い姿勢で、紅井渚は本を読んでいた。本のタイトルは、「軍隊式殺人術」という、怪しげな本である。
漆黒のメイド服をしたその姿に、周囲の人間は好奇の目を向けているが本人は気にもとめていない。
向かいの席には、渚とは正反対のきちんとしたスーツ姿の若い男が渚の姿を怪訝な眼でみながらカプチーノを飲んでいる。
「警部、警部」
若い男は、何度も渚に声をかける。耳につけているイヤホンのために呼び声が聞こえていないようだ。
堪りかねた若い男は、左側のイヤホン外す。
「何?」
いきなりイヤホンを取られたために、不機嫌そうに睨む。
「電話。さっきから電話なってますよ」
テーブルの上に置かれている電話からは、ワルキューレ騎行が流れている。
画面を見ると、非通知着信と表示されている。
「はい? どちらさん」
けだるそうに電話に出る。
だが、応答がない。
「いたずらなら逆探知するけど?」
イラつきながら言うと、受話器から低い男の笑い声が聞こえる。
「はじめまして。」
男は、ゆっくりとした口調で話す。
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