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「特に何も決めてないわね。会わない事はないと思うけど……ね、陽菜」
秋葉原さんのその言葉に陽菜さんは「うん」とだけ言って頷いた。仕方ないけど、いつもの明るさはほとんど無い。
「そっかぁ。話振っといて何だけど俺らも何も決めてねぇんだよなぁ。せっかくだし夏休みっぽい事をしたいんだけどさ」
「夏休みっぽい事……花火とか?」
「良いねぇ花火。どっかで予定合わせてみんなでどうよ。なぁ尚斗、あの広場だったら良さそうだし」
「う、うん。あそこなら広いし、水さえ準備すれば良いと思う」
俺は周りを見渡しながらそう返した。やっぱりどうしても気になってしまう。
「なーんか、寧ろ雑談する事で余計体力消費させそうだな」
「ご、ごめん。せっかく気を遣ってくれてるのに」
「いや、まぁこれはしょうがねぇや。つってもほどほどにしろよ。いざという時に役に立たないと困るからな」
「い、いざという時にか……」
「身構えんなよ、殴り合うワケじゃねぇよ」
翔希はそう言って俺の肩を軽く叩いた。俺は「わかってるよ」と返事をしたけど、その後に「たぶんな」と笑われ、俺は思わず溜め息を吐いた。
学校の中まで入れば多少は安心できるだろうと思っていたけど、その考えは甘かった。まだ何かが起きた訳じゃ無いけど、同じ校舎に武畑先輩がいると思うと気が気じゃなくなる。授業中でさえ誰かが廊下を歩く足音が気になって、まるで集中できなかった。
そんな調子で半日が終わり、昼休みの時間になるともうヘトヘトだった。昨日寝られなかったせいもあるけど、まるで頭が回っていない。特に3限の数学は記憶がまるで無い。寝てはいないと思うけど……。
「あんまこういう事を言いたくねぇけど、次の授業寝とけば? さすがに授業中に何か起きるワケはねぇからさ」
「う、ううん……」
それを見かねてか、翔希がそんな事を言った。そのつもりは無くてもそうなってしまいそうだ。
「お前、今の状況ちゃんとわかってるか?」
「わ、わかってるよ。春川さんに何かあったらすぐに……」
「その春川さんが今お前の横にいる理由は?」
翔希がそう言って箸の先を俺に向けた。今? 何を言ってるんだ翔希は。陽菜さんはいつも女子何人かで弁当を……。
「……え?」
ふと横を見ると、隣の席に陽菜さんが座ってこっちを見ていた。
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