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「海部君とその、音無君っていつからの付き合いなの?」
「もう物心付いた時からだなぁ。あいつ今はあそこで1人暮らししてるけど、実家は俺の家のすぐ近くなんだ」
「そんなに近いの? どうして1人暮らしなんて?」
「さぁ、それはちょっと。尚斗の家族って昔からちょっと変わってんだよな」
悪い意味じゃないけど、と付け足して笑う。
「そうなの……えっと、その……」
「良い奴だよ、尚斗」
「え?」
「ちゃんと人の事考えれるし、困ってる人がいたら放っとけないタイプ。それに器用で大体の事できるけどそれを自慢する事は無いし」
こうして言ってみると、改めてアイツは中々凄い奴だと実感する。
「あれ、尚斗の事知りたいんだと思ったけど違った?」
しばらく反応が無かったのでそう訊いてみた。
「ううん、合ってるけど……海部君って凄いのね」
「俺が?」
「そんな風に身近な人を誉めれる人、私初めて見たかもしれないわ。さっきもこの町の良い所すらすら言ってたし」
「そっかなぁ……思ってる事言っただけだよ」
「ふふっ、それなら安心ね」
そう秋葉原さんは笑い、再び尚斗の住んでいるアパートに目を向けた。
「ごめんなさいね、反対なんて言って」
「いやいや。秋葉原さんって良い人だよね。俺がその立場だったら反対って言えないや」
「そうかしら。意地が悪いだけかもしれないわよ?」
「春川さんの事を心配してるんだなってくらい俺にもわかるよ」
「そう……あら?」
一瞬嬉しそうな顔をした秋葉原さんが、ふと後ろを見てある事に気付いた。俺もその直後に同じ事に気付く。
龍之介が、いない。
「龍之介!」
「しまった、話に集中し過ぎた……」
「たぶんさっきの公園にいると思うわ。あ、海部君はこのまま帰ってもらっても」
「良いよ、もし違ったら大変だし俺も行くよ」
「……わかったわ、ありがとう」
そう言って俺と秋葉原さんとその兄弟達は来た道を引き返して公園に向かった。
「海部君って優しいのね」
「そう?」
「えぇ。こんな人がそこまで言うなら音無君もきっと良い人ね」
「それは俺が保障するよ」
そう言うと秋葉原さんは軽く笑って頷いた。辿り着いた公園の中から子供の泣き声が聞こえてくる。俺は秋葉原さんと顔を合わせて笑いながら公園に入っていった。
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