7ー2.Prospect

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  「秋葉原さん、大丈夫?」 「あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりして……」  我に返った秋葉原さんがそう言った。無理もない、秋葉原さんも大皿1つが3人分だと思ったはずだ。 「これ、どのぐらいあるんですか?」 「え? 胸肉2枚だから700グラムぐらいよ?」  うん、多い、おかしい。この丼の白飯と合わせたらまぁ間違いなく1キロ越えてる。どうしてこの人は何でそんな事訊くの? みたいな顔をしてるんだ? 「朝陽さん、毎日この量食ってんの?」 「毎日ではない、仕事の日だけだ」  それはもう毎日って言って良いと思う。日替わりランチとは言っていたけど、量が日によって変わる事はたぶん無いはずだ。  深呼吸をして箸を手に取った。フードファイターが食べる前に無言で集中しているのを見た事があるけど、何だかその気持ちがわかった気がする。  意を決してカツを取り口に運ぶ。噛むと口の中でサクッと良い音がした。 「……うまっ」  思わず声が漏れた。鶏の胸肉って油が少なくてパサパサしているイメージがあったけど、そんな事は全くなかった。油が少ない分トンカツよりもあっさりしてむしろ食べやすい。  そこからは無言だった。量に圧倒されていたけど、腹はかなり減っていた。時折朝陽さんと秋葉原さんが話をしていたが、それに混ざるとその間にお腹が膨れて食べられなくなりそうだったのでひたすら食べ続けた。 「おかわり、いる?」  その言葉に、俺は無言のまま首を振った。目の前には空になった皿や丼、何だかテストが終わった時よりもやりきった感が強い。 「って、朝陽さんはいつの間に食べ終わったんだよ……」  前を見ると、朝陽さんの前にある皿も既に空になっていた。先に来たと言ってもそんなに差なんて無かったはずだ。 「大食いや早食いのコツはあまり噛まない事だ。満腹中枢が刺激されにくくなるから多く食べられるし、咀嚼時間分食べるのが早くなる。ちなみに、医者としては当然推奨しない。さらに加えて言うと、食べきれなかったので2切れ君の皿に移した」 「いや最後! 全然気付かなかったわ!」 「気付かれないようにやったから当然だ。ちなみに好実も1切れ乗せている」  そう言われたので横を見てみると、いつの間にか秋葉原さんの前の皿も空になっていた……が、その横に大量のカツが入った透明なタッパーがあった。 「入りきらなくて……」  俺は大きなため息を吐いた。実際お腹がいっぱい過ぎて軽く息を吐いた程度なんだけど、気持ち的に。朝陽さんや秋葉原さんに向けてじゃなくて。  タッパー、あるなら先に言ってよ……。  
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