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「さて、そろそろ行こうか。用事もできた事だし」
「いや今から尚斗達を迎えに行くんだから行ってもいないだろ」
「そのまま家に帰るのならそうだが、恐らく2人を送った後職場に戻るだろう。つまり駐車場で待ち伏せすれば高確率で会える」
朝陽さんが楽しそうにそう言い立ち上がった。この人の子供じゃなくて良かった、マジで。
朝陽さんが会計の書かれた紙を取った。横から覗いてみる。1500円、ランチにしては高いけど、あの量なら仕方ない。秋葉原さんみたいにタッパーで持って帰れば夕食にもなるし。
「どうも、また来てくださいねー」
「あぁ、ご馳走さま」
朝陽さんが林田さんに1500円を渡した。俺も財布から2000円を出していたのだけど、何故か林田さんはそのままレジの方へと歩いていった。
「君は何をしてるんだ?」
「いや、500円が無いから2000円でお釣りを」
「ここの日替わりランチは1人500円だ」
朝陽さんが壁を指差した。そっちを見るとチラシが貼ってあった。確かに書いてある、日替わりランチ500円。
「……え、なんで?」
思わずそう訊いてしまった。いくらなんでも安すぎる。こういう店ってそんな値段でも儲かるもんなのか?
朝陽さんは何故か満足げな表情をして店のドアを開けた。外は相変わらずの雨で、飛沫が顔にかかった。
「立ったままではなんだ、車に戻ろう」
朝陽さんがそう言い店から出ていった。俺と秋葉原さんは林田さんに挨拶を済ませ、その後を追った。
「ここに来る時に私がなんて言ったか覚えているかい?」
車を発進させると、朝陽さんがそう訊いてきた。
「……昼飯?」
「確か、戦ってはいけない相手……でしたっけ?」
「うん、その通り」
秋葉原さんに向かって朝陽さんが頷く。そう言われてみればそんな事を言っていた。
「林田さんはアパートのオーナーなんだ。尚斗が住んでいる所もそうだし、他にもいくつか持っている。つまり、他に収入がある」
「え、マジ?」
「それ自体がどうという事は無いが、そういう人が仕事として行うような事を趣味で始めてしまうと、同業者はとてつもなく不利になる」
「そうなのか?」
「もちろんさ。他に充分な収入源がある場合、そこで儲けを出す必要が無い。だからこそあんな値段でやっていけるのさ。普通は当然生活費などを稼ぐ必要があるし、そもそも店自体に家賃が発生しているからその分も稼がなくてはいけない。結局、今となってはあの辺りにある食事処はチェーンのファミレスくらいになってしまった」
朝陽さん言い方からして、前までは他にも店があったという事だろう。確かに客側としては嬉しいけど、同じ業種の店からしたら戦って勝てる訳がない。
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